研究課題
本研究の目的は、日本と欧米の比較可能な個票データを用いて、青壮年期における循環器疾患リスク要因(生活習慣、心理的要因、生物学的マーカー)の社会経済的格差を比較検討し、共通点・相違点を明らかにすることである。日本のJ-SHINEデータでは、主に食習慣に関する分析を進めた。教育歴と食習慣の関連を媒介するメカニズムとして所得・ヘルスリテラシー・社会的サポートに着目し、この関連にはヘルスリテラシーの媒介度合いが大きいことを示した。歯科受診に関する分析も行い、社会的ネットワーク・社会的サポートが多い男性ほど予防目的に歯科受診をする割合が高いことを示した。治療目的の歯科受診、女性における予防目的の歯科受診ではこのような関連がみられず、社会的要因は予防的行動と関連すること、その関連には性差が存在することを明らかにした。当初の研究計画にはなかったものの、出生コホートである三世代コホート調査のデータを分析する機会に恵まれ、妊婦およびその配偶者における循環器疾患リスク要因の社会経済的格差の検討も行った。低い教育歴および低い世帯所得の妊婦ほど受動喫煙にさらされている割合が高いこと、配偶者の教育歴も本人の教育歴・世帯所得とは独立して妊婦の受動喫煙と関連することを示した。一方、妊娠中の飲酒は高い教育歴の女性で多いという関連も示し、検討する循環器疾患リスク要因によって社会経済的格差の様相が異なる可能性を明らかにした。英国のデータの概要・調査項目の把握は昨年度から引き続き実施しており、日英比較研究における仮説の検証を進めている。
2: おおむね順調に進展している
日本人における食習慣の社会経済的格差のメカニズムに関する検討は、国内学会での一般演題の口演発表を終え、国際学術誌への投稿準備を進めているところである。社会的ネットワーク・社会的サポートと歯科受診の関連は英語論文としてまとめ、国際学術誌に受理された。妊婦における教育歴・所得と受動喫煙の関連は、国内学会での一般演題の口演発表・ポスター発表を終え、国際学術誌に投稿中である。教育歴と妊娠中の飲酒の関連は、国際学会に抄録を提出しており、国際学術誌への投稿準備を進めているところである。
日本における循環器疾患リスク要因の社会経済的格差に関しては、青壮年期の地域住民を対象としたJ-SHINEデータ、妊婦およびその家族を対象とした三世代コホート調査のデータの両者の分析を進めることで、青壮年期における格差の実態を包括的に検討していく。現在行っている国際学術誌への投稿準備を引き続き進めるとともに、まだ検討できていない循環器疾患リスク要因・メカニズムの検討も同時に行っていく。英国データの分析も進め、日英比較研究における仮説を検証していく。
今年度は、J-SHINEデータの分析に加え当初の研究計画にはなかった三世代コホート調査データの分析を優先したため、学外での研究打ち合わせや学会参加が少なくなり、旅費の使用額が予定よりも少なかった。その分、日本の格差の現状を詳細に包括的に捉えることができた。次年度は、今年度に得られた研究成果を国際学会で発表する機会、学外の打ち合わせで議論する機会を多く設け、次年度に使用を繰り越した旅費をそのために使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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