研究実績の概要 |
2012年から2016年に大阪市で新規登録となった結核患者由来の結核菌2,411株(全結核培養陽性者の73.5%)について、24Beijing-VNTRセット(超可変領域を含む24領域)による遺伝子型別を行った。得られたVNTRパターンを菌株間で比較し、24領域が一致した菌株群をクラスターと定義し、クラスター発生状況を分析した5年間の大阪市の結核患者由来株について分子疫学解析を行った結果、2,411株のうち、784株(32.5%)が193クラスターを形成した。クラスターを構成する菌株数(クラスターサイズ)は2~26であった。4つのクラスターはクラスターサイズが20以上であった。そのうち1つクラスターは、M株と称されるストレプトマイシン(SM)耐性の国内菌株群と同じVNTRパターンであり、24株すべてがSM耐性であり、菌株の由来患者の居住地は大阪市内10区以上に散在していた。一方で、26株で構成された2つのクラスターでは、半数(15名)以上の患者が西成区に居住していた。これらのクラスター形成株の75%(12名)以上はあいりん地域患者由来株であり、同地域の患者を中心として結核の感染伝播が広がっていた可能性が考えられた。大阪市の中でも結核罹患率の高い西成区において、あいりん地域はクラスター率が高く、本地域における感染伝播は他地域よりも多いと考えられた。同地域では不特定多数が密集して生活しており、シェルターや休憩所など感染の機会となり得る場もあるため、今後も感染伝播の防止に向けた取り組みが必要である。クラスターの形成状況から、結核の感染伝播を推定することで、地域の状況を加味した対策が結核罹患率低下に寄与するものと考えられた。
|