日本では65歳以上の10人に1人、75歳以上の4人に1人がアルツハイマー型認知症であり、最も問題となる症状の1つが徘徊である。徘徊行動の可能性を画像診断、血液・髄液検査等を用いて推測できれば、徘徊後の死亡を予防できるのではないかと考えられる。病理学、画像診断、髄液検査、遺伝子多型等とアルツハイマー型認知症による徘徊行動を統合的に解析した研究はこれまでほとんどなかった。本研究ではこれらの複数因子を統合的に解析し、徘徊行動等の推測を目的とし、法医学的研究成果を臨床医学へ波及することを目論んでいる。 法医解剖・死後画像検査事例から臓器、髄液、血液、画像データを採取した。1)大脳組織については、抗アミロイドβ抗体および抗Tau抗体を用いて免疫染色を行い、老人斑、神経原線維変化等の密度を測定、2)ELISA法により、血液・髄液中アミロイドβおよび髄液中Tauタンパク濃度を測定、3)死後CT画像から、海馬の幅および高さを測定、4)法医解剖時の海馬の幅および高さを測定し、健常者およびアルツハイマー型認知症患者についての解析を行った。 1)免疫染色で染色される老人斑、神経原線維変化等の密度は、健常者とアルツハイマー型認知症患者において差が認められた。2)法医解剖時に採取した髄液中のアミロイドβ蛋白を測定・分析したところ、健常者とアルツハイマー型認知症患者のアミロイドβ蛋白値に有意差が認められることを確認した。3)死後CT画像解析を用いて、冠状断面および横断面の海馬サイズは若年者と70歳代以上の高齢者に有意差が認められた。4)法医解剖時に測定した海馬サイズに関しても同様に、若年者と70歳代以上の高齢者では有意差が認められた。腐敗による死後変化等が大脳や海馬の大きさに及ぼす影響も考慮する必要があるが、死後画像検査および解剖時における海馬サイズ測定は今後の研究においても有用であろうと考えられる。
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