研究課題/領域番号 |
18K17417
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
尾崎 充宣 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00760521)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脳浮腫 / 水中毒 / サイトカイン / 急性心不全 / ノックアウトマウス / 低ナトリウム血症 / アクアポリン |
研究実績の概要 |
水中毒は細胞内に水分の異常な貯留を引き起こし脳浮腫などの致命的な合併症の原因となる。本疾患は法医解剖においてもしばしば遭遇するものであり、その診断の根拠となりうる客観的な指標を確立することは重要な課題であると考えられる。そこで本研究では、まず水中毒モデルを各種Knock-outマウスで作成することにより、水中毒による脳浮腫の発生に密接に関連するサイトカイン・ケモカインを同定、解明することを目指した。 30年度においては、CX3CR1ノックアウトマウスと野生型(C57/BL6J)マウスを用いて、体重の19%(0.4μg/kgのバソプレッシンを含む)の水をマウスの腹腔内に注入することで水中毒、脳浮腫モデルを作成した。CX3CR1ノックアウトマウスは野生型マウスに比べて、12時間後の死亡率は有意に高かった。水中毒作成後30分で摘出した脳組織の含水率(浮腫率)を比べると平均値がそれぞれ野生型マウスで79.1%、ノックアウトマウスでは79.7%であり有意差をもってノックアウトマウスの方が含水率が高いことがわかった。同時に採取した血清でのナトリウム値は野生型マウスで平均115.75mmol/l、ノックアウトマウスで平均110.3mmol/lでありノックアウトマウスの方が有意に水中毒の状態においてより一層の低ナトリウム血症を呈していることが分かった。同じモデルでの心臓、肺、腎臓、筋組織も摘出し、浮腫率、アクアポリンに関する免疫染色等も行っており、ノックアウトマウスでは野生型に比べて各組織の含水率が高いという結果も見出している。これらの知見よりCX3CR1が水中毒の病態形成において組織間の水分布調節に関わり、うっ血性心不全や脳浮腫を抑制している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
30年度に実施した研究で,水中毒モデルにおいてCX3CR1ノックアウトマウスが野生型マウスに比較して死亡率や脳浮腫率が有意高く、また、有意に低い血清ナトリウム値を示すことを明らかにすることが出来た。この結果はCX3CR1が水中毒の病態形成において保護的に機能する事を示すものであるが、その分子機構については現在のところ不明である。今年度以降、アクアポリン類を中心に遺伝子レベルやタンパクレベルの解析を鋭意継続してCX3CR1を介したシグナルが水中毒の病態形成において保護的に機能する分子機構を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で見出した結果であるCX3CR1ノックアウトマウスは野生型に比べて水中毒に陥った際に血管内での水分排泄が悪く、うっ血性心不全や脳浮腫を来たしやすいという可能性に関して、原因となりうる遺伝子発現、タンパクの同定が急がれる。リアルタイムPCR、ウエスタンブロット、アクアポリンなどを中心とした免疫染色を行いその究明を進める。それらの結果に基づいて血管内容量が増えた際の水の血管外排泄制御に関与する機構を探求する予定である。また本研究は、実際の水中毒による脳浮腫の剖検試料について候補となった分子の網羅的解析を展開し、それらの発現動態が水中毒の診断のための有用な指標となり得るかを検証することによって、新たな分子法医診断法の確立を目指したものであるので、動物実験の結果をもとに同定した脳浮腫の発生機序に関与するサイトカイン・ケモカインが剖検試料において、どのような動態をとるかを探求する。具体的には法医剖検例で収集した試料からRNAを抽出し、指標分子の候補のいくつかのサイトカイン・ケモカインについてリアルタイムPCR法による遺伝子発現量、ならびにELISA法によるタンパク質発現量の定量的検討を行う。さらに免疫染色により各分子の局在を検討する。最終的には、水中毒におけるサイトカイン・ケモカインを指標とする分子法医診断基準の確立を目指すこととしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末近くに発注した試薬や動物の在庫が無く発注を見送ったため次年度使用が発生した。 今年度に入って速やかに発注しており、今年度の研究に支障はない。今年度の研究においては更に計画的に発注を行うことを心がける。
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