研究実績の概要 |
初年度の研究では、心筋のリポフスチン沈着がオートファジー/リソソーム系全般の機能障害を反映しないこと、リポフスチン沈着は加齢の指標となるものの心臓性突然死の診断マーカーにならないことが明らかになった。 そこで、本年度はリソソームの主要なタンパク質分解酵素であるカテプシンB,D,L(CTSB/D/L)とその標的分子となるp62, ATP synthase subunit c (ATPSC), andα-synuclein (ASNC)に注目し、致死性心肥大におけるリソソームのクリアランス機能を解析した。 心疾患のない健常例(n=17)の心臓組織をウェスタンブロットすると、年齢と相関してCTSBとCTSDの増加を認めたが、CTSL、p62、ATPSC、ASNCの変化は認めなかった。これは、加齢に伴うタンパク質クリアランスの需要の増加が、CTSBとCTSDの増加により対償されているものと考えられた。 次に、年齢を調整し、致死性心肥大(n=11)と対償性心肥大(n=10)の心臓組織を健常例(n=13)の組織とウェスタンブロットで比較した。すると、CTSDが致死性心肥大で著明に減少するものの、それに伴うp62、ATPSC、ASNCの増加は認めなかった。免疫染色でも、致死性心肥大の核周囲ではCTSDが減少していたが、細胞質への散在化は認めず、リソソームからの逸脱は示唆されなかった。また、血中のCTSD濃度も致死性心肥大で減少しており、CTSDが心臓組織から逸脱しているのではなく、発現が低下していることが確かめられた。以上から、心臓におけるCTSDの発現の低下は、p62、ATPSC、ASNC以外の分解基質を経由して、心臓性突然死に寄与する可能性が示された。
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