本年度は,アルコール(Alc)代謝の鍵酵素であるAlcohol Dehydrogenase class I (ADH1)およびAlcに高いKmを持つAlcohol Dehydrogenase class III (ADH3)が共に肝の次に腎に多く分布していることに着目し,8週齢の野生型マウス(WT),ADH1ノックアウトマウス(ADH1KO),ADH3ノックアウトマウス(ADH3KO)に水(C群)あるいは10% Alc (E群)を1か月投与させた上で26.8%の高濃度のAlcを腹腔内投与し,慢性Alc下での急性アルコール負荷時の腎障害を形態学的に検討した。 WTではC群E群共に,近位尿細管内部及び糸球体内部に好中球浸潤を認めた。ADH1KO(C群)では著明な病変を認めなかったのに対し,ADH1KO(E群)では糸球体凝縮像,糸球体への好中球浸潤,近位尿細管内の尿円柱を認めた。ADH3KOではC群E群共に,著明な病変を認めなかった。以上より,慢性飲酒下での急性Alc負荷による腎障害にはADH3が関与している可能性が示唆された。昨年度までに得た結果では,慢性飲酒による腎障害の増悪にADH3が関与している可能性が示唆されており,慢性飲酒下のみならず急性飲酒下においてもADH3が腎障害に関与している可能性が明らかとなった。 また,WT,ADH1KO,ADH3KOに5% Alcを1年飲酒させ,経時的に尾静脈採血し,Alc代謝速度を算出した。 AD3KOは1年を通じて多量飲酒であったが,血中Alc濃度は飲酒開始早期(34日)で低下していた。WTとADH1KOの飲酒量は多くなかったが,WTは飲酒後106日で血中Alc濃度が低下したのに対し,ADH1KOは240日経過するまで高いままであった。以上の結果より,ADH3KO>WT>ADH1KOの順でAlc代謝能に優れていることが明らかとなった。
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