本研究では、薬物中毒が死因となった剖検例の脳を試料とし、免疫組織化学的に染色を行い、病理学的な変化を観察した。神経細胞、アストロサイト、ミクログリアの細胞毎に、傷害の程度を 検討することで、薬物乱用に関連した症例の診断に有効な病理変化を解明し、得られた神経病理学的変化の剖検診断への応用を図ることを目的とした研究である。新しい症例を集積しながら、すでに集積していた脳の組織について、組織化学的染色のHE染色、LFB染色と、免疫組織化学的染色は、神経細胞についてNSE、MAP2、GLUT5の、アストロサイトについてGFAPの、ミクログリアについてIba-1の染色を行った。 集積していた症例のうち、危険ドラッグが死因と関連のある症例と、覚せい剤と危険ドラッグが死因と関連のある症例の2症例における、海馬と小脳について観察し神経病理学的変化を検索した。その結果より、興奮作用のある薬物により海馬の神経細胞の変化が起こった可能性が考えられた。また、その2例のうち、危険ドラッグが関連した1症例の海馬についてHsp70の染色を行ったところ、歯状回、CA3、CA2、CA1で陽性であった。今回、本研究機関では、症例数が少なく、診断に有効な病理変化の解明までは至らなかった。免疫組織学的染色や観察まで至らなかったが、カフェイン、メタノールなど、危険ドラッグや覚せい剤だけではない中毒死例などと比較したり、薬毒物とは関連のない症例などより多くの症例と他の抗原に対する免疫組織化学的染色を行い、病理学的に検討をする必要があると考えられた。
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