前年度までに、Y染色体STR(Y-STR)の一つであるDYF387S1のコピー数の分布がハプログループによって異なることを明らかにしたが、他のY-STRについても特定のハプログループで重複が生じていることを示唆する結果が得られていた。本年度は、そのY-STRが重複しているハプログループを特定するために試料DNAの塩基配列解析を行い、Y染色体ハプログループの細分化を試みた。その結果、半数以上の試料において当該Y-STRが重複している可能性があるハプログループを特定することができた。この結果から、祖先Y染色体では、このハプログループに分岐した後で、当該Y-STRの重複が生じた可能性があると考えられた。 前年度までに得られた成果と合わせて、本研究ではY染色体ハプログループとY-STRのコピー数やマイクロバリアントに関連があることを明らかにした。したがって、ハプログループの情報からY-STRのコピー数を推定したり、マイクロバリアントの情報からハプログループを推定したりすることが可能であると考えられた。また、本研究では、Y染色体STR型検査におけるPCR増幅効率やスタター比率とハプログループの関連を示す結果も得られている。以上のことから、法科学分野においては、Y染色体ハプログループの研究を推進して知見を活用することが、Y染色体STR型検査の結果の解釈にも資することにつながり有用であると考えられる。
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