研究実績の概要 |
昨年度、食前に実施する手浴が亢進した交感神経活動を抑制する可能性を示唆し、食事摂取を促すケアとして手浴が活用できる可能性が考えられた。しかし、手浴が交換神経活動が亢進することを抑制するのか、亢進した交換神経活動を沈めるのか、疑問が残された。そこで、今年度はストレスを模擬的に再現し、手浴の効果を皮膚血流量などの客観的および主観的指標を用いて明らかにした。若年健常者15名(男性1名、女性14名)を被験者とし、手浴群と対照群に無作為に割り振った。実験は人工気候室(室温28℃、湿度50%)で行い、模擬的なストレスの再現は、聴覚刺激を用いて工事現場の騒音を活用した。被験者は12分の安静後、騒音を6分間流した。手浴群は、騒音開始2分後より40℃に保った恒温槽を使用し、左橈骨茎状突起部まで浸漬する手浴を2分間実施した。騒音終了後12分間の安静を挟み、計3回繰り返した。対照群は、6分間の騒音刺激を3回行った。測定項目は、皮膚血流量(指尖、足趾)、皮膚温(指尖・足趾・上腕・大腿・下腿・前胸部)、深部体温(鼓膜温)、心電図、血圧および主観的評価とした。 その結果、騒音開始後、皮膚血流量と皮膚温が低下したが、手浴群は手浴中から血流量が増大(12.8±7.5% vs.3.4±7.2%,p<.05)し、皮膚温も上昇した(0.07±0.07℃ vs.-0.06±0.12℃,p<.05)。また、手浴群は手浴中に全身の温感(1.0±0.8cm vs.-0.8±1.0cm, p<.05)、リラックス感(1.6±2.9cm vs.-1.7±1.5cm, p<.05)が高まり、全身の温感(0.5±0.7 cm vs.-0.6±0.9cm, p<.05)は手浴後も継続した。よって、手浴はストレス性の交感神経活動を抑制し、消化管の運動および分泌機能が抑えられることを防止するケアとして活用できる可能性が示唆された。
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