本研究の目的は、先天性耳介奇形を矯正するための安全な耳介矯正装具を開発することである。第1段階として、矯正装具に適した素材の検証、第2段階として矯正した耳介軟骨の形態が維持されるのかを検証した。【実験1】耳介部に強固な固定を行っても軟骨増生を阻害しない矯正装具の素材を抽出することを目的に、ウサギ耳介部を可塑性樹脂で彎曲固定し(実験群n=4、対照群n=4)、3ヵ月後の様相を観察した。湾曲した部位の軟骨の厚さは増大しており、軟骨厚は実験群は550.5±266.8μm、対照群は142.8±8.1μmと有意に実験群が肥厚していた(p=0.004)。ウサギ耳介部を可塑性樹脂で彎曲固定することにより、軟骨増生は阻害されず、耳介軟骨・表皮・皮下組織が肥厚し、血管増生が認められた。【実験2】矯正装具による固定解除後の耳介角度の変化を明かにすることを目的に、生後4から20週齢のウサギ6羽を使用し、実験群には1週間彎曲固定し解除する1週間固定群(n=4)、2週間彎曲固定し解除する2週間固定群(n=4)を作製し、固定しない群(n=4)を対照群とした。彎曲固定の方法は、耳介部の直径の半分の部位を外側に折り曲げ、可塑性樹脂で固定した。分析方法は、耳介部を立たせ正面からカメラで撮影し、彎曲度を毎週計測した。耳介彎曲度の平均値と標準偏差は、対照群が201±9.4度、1週間固定群は固定解除日25.3±12.2、1週間後165.3±41.8、2週間後167.0±46.1、3週間後213.0±22.3度であった。2週間固定群は、固定解除日32.83±19.5、1週間後136.0±79.3、2週間後143.5±73.5、3週間後180.5±57.8度であった。以上の結果から、矯正装具に使用する素材として可塑性樹脂は安全であり、装具固定を行う場合3週間以上は固定する必要があることが明らかとなった。
|