うつ病患者の家族に対する支援の必要性は明白であるが、普及は進んでおらず、特に、配偶者に対する支援方法は十分に検討されていない。本研究は1群前後比較のパイロットスタディとした。外来通院中のうつ病患者の配偶者に対して、看護師が個別面談を1回につき約45分、合計4回、約10週間の介入を実施した。個別面談では、Rogers(1951)の理論に基づき看護師が傾聴を行い、配偶者が思いを語れる場を提供した。この介入が、配偶者の認知するソーシャルサポート、自尊感情、うつ症状に対して、統計学的に有意にポジティブな変化をもたらし、かつ波及的にうつ病患者のうつ状態(Hamilton Depression Rating Scale)を改善する、と仮説を立てた。 2017~2019年度、合計16名の配偶者に介入ならびにデータ収集を完了した。統計解析の結果、配偶者のアウトカムにおいて、介入後、認知するソーシャルサポートのサブスケールSignificant Otherのスコアが有意に低下した。また、介入後、患者のうつ病の重症度が有意に改善した。介入は、配偶者に対して仮説通りのポジティブな効果を示さなかったが、配偶者に対して行ったアンケート調査では、自由記述で「個別面談が有意義であった」、「気持ちが整理できた」との回答が得られた。 2020~2022年度は、配偶者にとって、思いを語る場が設定され傾聴されたことはどのような経験であったかを詳細に分析するため、5名のインタヴューデータをP. Bennerの解釈学的現象学的手法を用いて分析した。その結果、配偶者は日常的に抑圧していた思いを少しずつ表出し、話しながら自身の思いや考えに気づき、徐々に自己について言及するようになっていった。また自身の経験を振り返りとらえ直したり、改めて患者との関係について考えたりするきっかけとなったことが示唆された。
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