近年の医療技術の進歩により、多くの合併症を持ったハイリスク患者の手術が増加している。安全な周術期管理には輸血療法は必要不可欠であり、自己血輸血(術前に自己の血液を採血し手術時に輸血)が推奨されているが、採血時に循環動態の変動や意識消失を来たす事例が報告されており、問題となっている。予備能力の低いハイリスク患者の循環動態の変動を早期にアセスメントできる指標があれば、症状の重篤化を回避できる。さらに、本研究で自己血採血をモデルとした検証が進めば、総循環血液量の約10%以上の循環血液量の変化を伴う侵襲時における安全な循環管理への貢献が期待できる。本研究目的は、自己血採血時の循環動態変動のリスクを低下するための早期評価指標を検討することである。 本研究期間中は、研究者の異動に伴い新たな研究機関での倫理審査の準備に時間を要したことや、COVID-19のパンデミックによる研究環境の変化と在宅勤務要請などの影響で累積症例数の達成度に大幅な遅れが生じた。また、研究者の産前産後休業・育児休業取得もあり、思うように研究を進めることが難しい状況にあったが、必要症例数をなんとか確保することができた。令和5年度は、症例登録を終了しデータ解析を進めた。その結果、心拍変動周波数解析により得られた自己血採血中の自律神経活動の変動と血圧との関連性が観察され、循環変動をアセスメントする上で新たな指標となる可能性が考えられた。 なお、本研究の実施に伴う有害事象は認められず、安全に実施できた。
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