本研究は、糖尿病薬自己注射患者が1年間にわたり自己管理手帳(以下「手帳」)をつける経験を、現象学的研究によって明らかにし、糖尿病看護で活用できる自己管理ツール開発案を作成することを目的としたプロジェクトである。最終年度は、研究参加者4名の経験を3本の論文にまとめ、以下の通り掲載が決定した。 ・細野知子(2021).糖尿病手帳をつける経験の現象学的探究 ――自己血糖測定時のつぶやきを通じて――.現象学と社会科学.4,69-87. ・細野知子(2021).想定外の大惨事で一変した暮らしから捉える糖尿病の経験―指標を記録しなかったある1名の語りから.日本看護科学会誌,41,305-312. ・細野知子(2022).糖尿病薬注射患者が糖尿病手帳を使う経験――つぶやきや語りとともに.日本保健医療社会学論集,33(1),頁未定. これらの研究の結果から、「手帳」が糖尿病薬自己注射患者と医療者とのコミュニケーション・ツールになること、「手帳」使用者がカスタマイズ可能なツールにすることで生活になじむ自己管理方法が編み出されうることが明らかになった。これらの知見を組み込んだ自己管理ツール開発に向け、社会学者の海老田大五朗氏(新潟青陵大学准教授)、デザイン実践・研究者の由井真波氏(成安造形大学・リンク・コミュニティデザイン研究所)、糖尿病専門医の井花庸子氏(国立国際医療センター・糖尿病情報センター)と意見交換を重ね、次期研究プロジェクトを計画した。次期研究プロジェクトでは、糖尿病患者の効果的なモニタリングと対話型医療を導くカスタマイズ可能な手帳をデザインして使用し、患者及び医療者を通じてその効果を検討していく予定である。
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