研究課題/領域番号 |
18K17573
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研究機関 | 沖縄県立看護大学 |
研究代表者 |
上原 和代 沖縄県立看護大学, 看護学部, 准教授 (70406239)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 新生児集中治療室 / NICU / 在宅移行 / 退院準備性 / 尺度の標準化 |
研究実績の概要 |
国内3地域での調査は前年度に完了し、2019年度は調査結果の一部の公表と追加のデータ分析を目標に、年度前半は国際学会発表等への発表、後半は国内誌への投稿を計画した。 2019年5月5-8日、前年度冬に採択された第10回世界新生児看護学会(10th Council of International Neonatal Nurses Conference 2019)へ参加しポスターにて日本語版早産児の親の在宅移行尺度(Transition-to-Home:Premature Parent Scale:JPTQ)の構成概念と因子分析の結果を報告した。 本調査はNICUから退院する乳児の親を対象にした、退院前、退院後1週と1か月の3時点における縦断的質問紙調査である。回答者はナンバリングされ連続データとして分析可能である。国内の3地域3施設の参加者は合計275人、退院後1週間113人(41.1%)、1か月99人(36.0%)であった。JPTQが含まれる退院後2時点のデータについて尺度の因子構造と信頼性を分析した。退院後1週調査の参加者背景は、母親77%、初産49.6%、退院先は自宅と実家が半数であった。乳児の平均出生体重は1901g(SD±777,466-3470)、平均出生週数33.5週、平均在院日数40.3日、退院後も医療的ケアが継続する者は77.6%であった。退院後2時点で連続回答が得られた82名分で再テスト法をした結果、トータルスケールで高い相関が得られ、再現性が高かった(r=.74,p=.00)。2時点のJPTQの回答から因子分析したところ、JPTQは原版と同様の4因子構造(Professional Support,Isolation,Confidence and Worryを保持し、内部一貫性が高く(Cronbach'sα=.85)、因子の累積寄与率は60.4%であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国際学会会期中にJPTQの原版(Transition-to-Home:Premature Parent Scale)の作成者であるBoykova氏へ日本での調査の進捗を報告し、同氏の調査結果(Boykova,2018)と今後の計画について情報共有した。医療先進国における新生児看護では、タイムリーかつ養育者のストレスが少なく、NICUから在宅へ子どもの生活の場を移行することとその支援が長年の重要なテーマの一つである。NICUからの退院準備性や在宅移行状況を可視化できる世界標準のツールが日本でも利用できることは、早産児とその親に資するだけでなく、世界最高水準の日本の新生児医療の可視化につながり、世界へ貢献する。開発者らの助言もあり、投稿計画は国内誌から海外誌へ変更することとした。 また、日本語版NICUからの退院準備性尺度親用(Japanese version Readiness for Hospital Discharge Scale-Parent Form:JRHDS-PF)についても、年度途中に原版作成者(Weiss,M、看護統計学)よりEメールにて、各国のRHDSおよびRHDS-PFの利用状況を把握し、標準値をプラットフォーム化する旨の連絡があり、JRHDS-PFの構成概念と因子分析までの分析結果を共有したところである。こちらも海外誌への投稿を要望されている。 2019年度の当初計画では、退院後に救急外来受診あるいは再入院となった子どもと親について、退院後の外来診療録から遡及的に調査しJRHDS-PFおよびJPTQのカットオフ値を見いだす予定であったが、退院後の分析には着手できないまま、COVID-19の感染拡大により県外への移動自粛期間となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は宇琉麻研究助成基金の報告書、学内・院内研修報告会、第29回新生児看護学会での国際会議参加報告等、関係者への報告の機会を得たが、本研究において日本での標準化をめざしている両尺度は、カットオフ値の確認、投稿と並行して、国内関連学会での周知活動を予定している。日本に100以上あるNICUにおいて両尺度を医療およびケアの質評価に広く利用されるために、広報活動とともに利用者のユーザビリティを高める必要がある。 今後の方策は、①本尺度のユーザーであるNICUの医療従事者、入院児の親にとって使いやすいよう調査フォームのオンライン化によりアクセシビリティを高める。②モデル施設において電子カルテと連動させ、医師の行う乳児の身体的退院準備の評価、看護師の行う養育者の育児技術や家庭環境のリスクアセスメントなど心理・社会的退院準備の評価、養育者本人の主観的退院準備の評価という、3側面から適切な退院時期の予測をするモデルを作成する。 ①についてはITの専門家との連携、②は引き続きNICUに勤務する小児看護専門看護師やNICU認定看護師の協力に加え、病院組織の協力が必要である。当該尺度の開発者らも世界で共有できるプラットフォームづくりに乗り出しており、日本のデータを提供しながら、乳児と家族にとってより良い日本のNICU医療へ転換していくことを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
退院後の救外受診や再入院に関連して診療録を用いた遡及的調査の開始が遅れていること、投稿論文の採択までを見越した予算立てであったが、投稿できていないため次年度繰り越しとなっている。
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