近年、アルツハイマー病と生活習慣病が密接に関わっているのではないかという疫学的な報告が相次いでいる。もし生活習慣病とアルツハイマー病の間に関連があれば、それに対する治療や介入によって、アルツハイマー病の予防もしくは発症を遅延させることができる可能性が考えられる。これまで、生活習慣病とアルツハイマー病の関係性について検証を重ねてきた結果、食事の改善よりも運動の方がAβの沈着や空間認識記憶力に対する抑制的効果を呈する事を明らかにしてきた。2013年の報告より、運動をさせたマウスにおいて、筋肉と海馬におけるFNDC5の発現が増加する事が明らかになった。FNDC5は、運動によって発現が誘導される転写コアクチベーター、PGC-1αの下流にある分子であり、通常は筋に多く発現し、運動に伴い何らかの酵素によって切断を受ける事でIrisinを分泌させる。そこで、Aβの前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)と、運動によって発現が増加し、Irisin前駆体タンパク質とも言えるFNDC5との間に関連性があるのかどうか、またFNDC5がAβ産生量に影響するのかどうかを検証した。運動に伴い発現が増加するとされるFNDC5がAPPと結合することで、アルツハイマー病の主原因とされるAβの産生に対して抑制的に働くこと、またFNDC5がAβ配列のN末端側で結合しており、sAPPβも減少させた事から、β-セクレターゼの作用を阻害する事でAβ産生減少に繋がっているのではないかと推測できる。更に、FNDC5の発現によって、BACE1の発現量並びに活性が低下していることが分かった。これらの結果より、FNDC5はなんらかの形でBACE1に働きかけ、Aβ産生の減少へと導く事が示唆された。
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