本研究の目的は,「老衰・認知症」等により死に至る高齢者が増加する一方,その生命予後の予測が困難であるという課題に対し,体重や食事摂取量といった日常的に得られるパラメータの推移を分析することにより,精度の高い余命予測の方法を明らかにすることであった。 高齢者施設で人工的水分栄養補給を受けることなく死に至った106名の高齢者において,毎月測定された体重から得たBMI(Body Mass Index)について死の60ヵ月前からの推移を分析したところ,死の9ヵ月前から有意に減少した。一方食事摂取量(kcal)は死の2ヵ月前から有意に減少し,さらに食事以外の水分摂取量(ml)は,死の直前になって有意に減少した。この3つのパラメータの予測能を分析したところ3者ともに有意であり,特に食事摂取量の変化は高い予測能を示した。 さらに本研究の最終年度においては218名の高齢者についてBMIと食事摂取量(体重あたり)それぞれの減少率について分析したところ,死の60ヵ月前からBMIは継続的に減少し36ヵ月前より有意に減少した。一方で食事摂取量(体重あたり)は12ヵ月前から有意に減少し,死の2ヵ月前からその減少率はBMIのそれを有意に上回った。以上より,死に至る要介護高齢者は,食事摂取量が一定であっても体重が減少し,やがて食事摂取量も減少するがその減少率がBMIの減少率を上回ると死が不可避となると考えられた。 加えてその食事摂取量が減少する理由について,記述された電磁媒体の記録より特定のキーワーズを抽出し,食事摂取量との関係を分析した。その結果,死の9ヵ月前より有意に減少する食事摂取量に,「開口悪」等の嚥下不良に関わる単語や「眠気」等の覚醒不良,「ムセ込」等の気道浄化に関わる単語の出現頻度が強い負の相関関係を示し,こうしたキーワーズの出現頻度の増加も余命予測を確実にすると考えられた。
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