研究課題/領域番号 |
18K17631
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
飯村 佳織 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (60815364)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膀胱機能 / 低活動膀胱 / 尿道括約筋 / 自律神経 / 排尿効率 |
研究実績の概要 |
目的:高齢者で増加する下部尿路症状は日常生活を著しく阻害するにも関わらず、病院を受診する者は少なく、セルフケアの需要が極めて高い症状である。下部尿路症状のうち排尿効率の低下を示す低活動膀胱は高齢者の40%に見られるにもかかわらず、定義があいまいで未だに有効な治療法が少ないため、今後、克服していくべき下部尿路の問題として注目されている。皮膚表面からの刺激(体性感覚刺激)は自律神経を介し膀胱機能を調節する(体性―自律神経反射)。本研究では体性―自律神経反射を応用し、排尿の促進に効果的な刺激を新たに見出し、さらにそのメカニズムを明らかにすることで、排尿効率の低下を示す低活動膀胱などに有用なセルフケア方法の開発に役立つ知見を提供することを目的とする。 令和元年度の研究成果: 初年度で確立した麻酔下ラットにおける正確な排尿量と残尿量の測定方法を用いて、体性感覚刺激による排尿効率(膀胱内容量に対して排尿できた割合)の変化を調べた。今年度は、体性感覚刺激のなかでも主に温度刺激における反応を調査した。その結果、腰臀部皮膚に対する非侵害性の範囲とされる温度刺激によって、排尿効率が増加する傾向が認められた。また、その要因の一つとして尿道括約筋への影響が示唆された。 具体的内容:膀胱への生理食塩水注入開始から自発排尿が起こるまで温度刺激を実施した。刺激前に3回(ベース)、刺激ありで3回自発排尿を行わせ、排尿効率の平均値を比較した。その結果、刺激を行った場合は、刺激前に比べ排尿効率が約12%増加した。この反応は、皮膚の局所麻酔時にみられなくなったため、皮膚からの求心性情報が排尿効率の増加に重要であると考えられた。さらに、膀胱内圧記録から推察される排尿時の尿道括約筋の活動に、刺激による一貫した反応が認められたことから、温度刺激が尿道括約筋を調節することで排尿効率を増加させる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は排尿効率の増加に有用と期待される温度刺激を明らかにし、そのメカニズムの一つとして皮膚からの求心性情報がかかわっていること、および尿道括約筋が調節される可能性があることなどを突き止めた。メカニズムについては、さらに今後調べる余地があるが、概ね計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1.温度刺激による排尿効率増加のメカニズムの解明 1)メカニズムを調べるための実験方法を確立する。現行の実験プロトコル(研究実績の概要の具体的内容を参照)は実験時間が長くメカニズムの検討には向かないと考えられたため、まず、メカニズム解明に適した実験プロトコルを決定する。 2)温度刺激による排尿効率の増加における膀胱や尿道に関連する神経活動や血流の記録、および温度感受性TRP受容体の薬理的遮断による影響を調べることで、メカニズムを明らかにし、排尿の促進に重要な皮膚刺激の条件を探る。 2.低活動膀胱となると予想されるモデル(老化膀胱、脊損モデル、卵巣摘出モデルなど)のなかで、明らかになったメカニズムから最も有効と予想されるモデルに対する温度刺激の影響を検証する。これにより臨床に応用しやすい知見を提供できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、研究成果の報告および意見交換を行うための学会が中止、および誌上開催となった。その分、次年度以降はより多くの学会に参加し研究成果の普及および意見交換をして、より意義のある研究へと発展させたい。また、メカニズムを調べるための実験方法の確立(今後の研究方法の推進方策1-1参照)により、必要な消耗品が当初の計画よりも増えるため、それら消耗品や必要な専門書の購入に使用する。
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