目的:下部尿路症状は日常生活を著しく阻害するにも関わらず、病院を受診するものは少なく、セルフケアの需要が高い症状である。下部尿路症状のうち低活動膀胱などによる排尿効率の低下は高齢者で多く見られるが、効果の高い治療薬はなく、克服すべき下部尿路の問題として注目されている。麻酔下動物において、皮膚表面からの刺激は自律神経を介し排尿機能を調節する(体性―自律神経反射)。本研究では体性―自律神経反射を応用し、排尿の促進、すなわち排尿効率の増加に効果的な刺激を新たに見出し、そのメカニズムを明らかにすることで、排尿効率の低下を示す症状に有用なセルフケア方法の開発に役立つ知見を提供することを目的とする。 令和3年度の成果:これまでに、皮膚への温度刺激(皮膚温付近で温度を上下させる)によって尿道弛緩時間が延長することで排尿効率が増加する成果を得たが、その際に膀胱容量への影響によって排尿効率増加作用の強さが異なることを突き止め、臨床応用における有益な知見を得た。また、このメカニズムに関連すると予想された尿道血流の自律神経支配についてさらに追及し、関連する神経と神経伝達物質を一部同定した。老齢動物1例において温度刺激に対する排尿効率への影響を検討した。 具体的内容:温度刺激時に半数例で膀胱容量の有意な減少が見られ、もう半数例では変化しなかった。刺激時に膀胱容量が変化しない場合、排尿効率の増加や尿道弛緩が顕著であったことから、膀胱容量が変化しない温度での刺激が効率よく排尿効率の増加を引き起こすことが示唆された。尿道血流の増加および減少は異なる自律神経により調節されており、薬理学的検討において血流増加には複数の神経伝達物質がかかわっていることが明らかとなった。1例の老齢動物において温度刺激時の排尿効率の変化が著しく減弱している結果を得たことから、老化により温度刺激の作用が変化する可能性が生じた。
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