研究課題/領域番号 |
18K17638
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福田 茉莉 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (70706663)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地域保健活動 / 脳血管疾患 / 保健師 |
研究実績の概要 |
本研究は,島根県独自の地域保健活動(疾病予防活動)の歴史的変遷を明らかにすることである。島根県の地域保健活動は大別すると,戦後以降、島根県の疾病予防活動の中核をなしてきた「脳血管疾患の死亡率の低下を目指す時期」,「健康づくりのためのまちづくりを目指す時期」,「互助組織が主体となり地域住民が主体となる時期」の3つの時期区分に分かれている。昨年度は、戦後から現在にわたる島根県内の地域保健活動に関する文献や報告書,保健統計資料を用いた文献調査を実施した。 県独自の地域保健活動を行う経緯のひとつは,戦中に開校された社会保健婦養成校にあると指摘できる。島根県は全国と比較しても保健婦養成に力点を置いた教育を行っていた。学生の就学環境や養成期間,保健婦養成の中核となる科目だけでなく,充実したカリキュラムが実施されていた。卒業生らの半数は国保保健婦や保健所保健婦として県内に就職するか,教育者として養成校に勤務しており,当初の教育を引き継ぐ形で人材育成が行われていた。 また,保健統計資料や当時の活動資料を考察するに,島根県民の脳血管疾患の死亡率の低下を主として疾病予防対策事業が実施されていたが,同時期に市町村ごとの疾病傾向調査を実施していた。戦後以降も,県独自に患者調査や健康意識調査が頻繁に実施されており,当時の地域住民の健康問題や疾病状況を調査していたことがわかる。当時、国家事業であった脳卒中特別対策事業を契機として,保健所と市町村自治体が連携し,地域独自の保健活動がより広範囲に実施されるようになったことが明らかになった。 これらの研究成果は,申請者の所属する学会や研究会等で報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に基づき,初年度の課題は戦後から現在にわたる既存資料を用いた文献調査が主であり,昨年度はその研究課題に従事することができたと評価できる。また,関係者への予備的なインタビュー調査から戦中の保健婦養成が島根県の独自性として言及され,養成校における人材育成という新しい視点から検討することができた。 ただし,これらの文献や資料は,当時の関係者が個人で所蔵しているものが大半であり,限られた期間で文献を収集することに限界があった。したがって,本年度も引き続き,文献の収集及び内容分析を実施する。 加えて,初年度は地域住民が参加する研究会において,本研究の知見を一部報告し,直接的に意見交流の場を設けることができたことは評価に値する。本研究の特色として,島根県の地域保健活動に基づく知見を地域住民に還元することも重要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は文献や報告書の収集と分析を実施することを主としていたが,地域での保健活動の実施に社会保健婦養成校における人材育成という背景要因がみられ,新しい観点を導入するに至った。来年度も引き続き,文献の収集と内容分析を行い,研究成果を報告する。また、来年度も継続して,当時の関係者へのインタビュー調査を実施する。当時の地域保健活動の詳細と人材育成の両側面から,地域保健活動における島根県の独自性がどのように構築されたのかを明らかにすることを目指す。 本研究課題の中核をなす地域住民の健康指標を用いた分析は,本年度の実施を予定していたが,既存の文献資料を検討する中で,初年度のうちに一部を分析した。その結果,地域住民の脳血管疾患死亡率の低下は,健康なまちづくりを形成する時期にあたることを示した。本年度は,この時期に実施された活動の焦点を当て,詳細な分析を実施する予定である。死亡率の低下と地域で実施された疾病予防活動の関連性を議論する。 さらに,本年度はカルガリー大学(カナダ)のTurin教授の研究室を訪問し,健康課題を解決するプロセスに関する研究の方法論的示唆をいただく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時の研究計画には当時の関係者へのインタビュー調査を初年度に実施すると記載していたが,初年度は文献調査と次年度に実施する予定であった保健統計を用いた分析に従事したため,研究計画を一部前後して実施した。初年度,インタビュー調査にかかる人件費や謝金,逐語録作成のための業者委託費,旅費等を繰り越している。該当箇所にあたる費用等は,本年度に実施する予定である。 また本年度は,本研究課題の国際協働の一部として,申請者はカルガリー大学のTurin教授の研究室を訪問する予定である。Turin教授は,公衆衛生学分野において地域における健康課題の検討するための実践法を研究しており,本研究課題に関する新しい知見が提供されると考える。Turin教授の研究室を訪問し,研究に関する意見交換を行う。それにかかわる諸経費を計上する予定である。
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