10歳未満で初潮を迎える早発月経は、虐待や親との離別などの不安定な家族状況、思春期の行動障害や性行為の早期開始、その後の精神疾患のリスクと関連す る。早発月経が 精神的な健康に影響を与えるメカニズムとして、セルフエスティームの低下や心理的な抑うつ状態などが検討されてきたが、これらの要因の媒介 効果は限定的である 。そこで本研究では、女性のリプロダクティブヘルスの「健康の社会的決定要因」とそのメカニズムを日本と英国の大規模調査のデータを 用いて検討し、生物学的・社会的性である女性の 健康を推進する方策を、日英比較を通して検証することを目的とした。 World Mental Health Survey Japan 2ndのデータを用いて分析した結果、日本のデータにおいても、10歳以下で初潮を迎えた女性は、その後の大うつ病のリス クが有意に高まる ことが明らかとなった。しかし、子ども時代のトラウマ体験、成人初期の社会経済状況ともに、早発初潮と大うつ病の関連を説明し得なかった。これらのことから、早発初潮が 精神機能に与える長期的な影響には、生物学的な要因が関連している可能性が示唆された。2022年度は、分析結果について国際紙で出版した。 また、英国のデータベースの利用登録を行い、英国のアドバイザーからの助言を受けながら、English Longitudinal Study of Agingを用いた分析について検討した。英国に渡航して共同研究を行うことはできなかったが、引き続き助言を得ながら分析を続けていくための体制を構築した。これらの研究成果から示唆された女性のライフコースにわたる健康の影響要因について、看護学部、看護学研究科の講義でディスカッションを行い、リプロダクティブヘルスの生物・社会モデルとして洗練させた。
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