一度死滅した聴覚神経細胞は回復しないといわれており,難聴の回復には難渋している.そのなかで,近年,突発性難聴者に対し,障害側のみで集中的に音楽を聴かせる病側耳集中音響療法を併用することで,顕著に聴力が回復したと報告され,自らの耳で音を積極的に聞くことが,難聴の回復手段の一つ,すなわち「聴覚リハビリテーション」につながる可能性が示唆された.一方で,我々は,高音質な音を提示することが可能なスピーカーを使用することで,語音の聞き分けに対する脳活動が増大することを報告した.そこで本研究では,高音質な音を聴かせる音響療法による「聴覚リハビリテーション」が難聴の回復を促すかどうかに関して,脳波や脳磁図等の電気生理学的手法を用いて検討することを目的としている. 2021年度では,データ計測を完了し,解析および結果のまとめを行った.13名の軽度難聴者を対象とし,集音器使用による1か月間の介入を実施することで,介入前後で聴覚誘発脳磁界を評価した.結果,有意差は認められなかったものの,介入前と比較し,介入後には,一次聴覚野の反応を示すN1m-P2m振幅が増大する傾向が認められた. 期間全体を通じて,本研究では,継続的な1か月間の継続的な音の聴取トレーニングを実施することで,聴覚関連脳活動を増大させる可能性を示した。今後の研究にて,集音器の特性の差異による聴覚リハビリテーション効果,聴覚検査結果と大脳皮質活動の関連性等を検討することで,効果的な聴覚リハビリテーションに関して検討する予定である.
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