本年度は,これまでの研究において使用してきた前十字靭帯損傷の自己治癒モデルを作成する実験動物種に関して,これまでのラットからマウスへの変更に挑んだ.本モデルは自身が確立したオリジナルモデルであるが,今後運動介入効果を検証していく過程へ向けて,運動介入への適性が高いとされているマウスへ動物種を変更することを目指したものである.使用する動物種は,その後の研究展開を考慮し,C57Black6系とした.結果として,ラットに比べ骨形態が異なるマウスの膝関節で,前十字靭帯損傷後の異常運動である脛骨の前方引き出しを制動するためには,ラットにおいて脛骨近位部のみに作成していた骨孔を,大腿骨遠位部にも作成する必要があった.そこで,骨孔を作成する器具,部位等についても検討を重ね,安定的に再現性のあるモデルを確立した.この方法により作成したBlack6マウスの制動モデルにおいて,完全損傷させた前十字靭帯が,介入後4週時点で連続性を持って治癒していることを確認した.今後はこのマウスモデルを使用し,前十字靭帯損傷の自己治癒過程における運動介入の効果を検証していく. 本年度挑んだもう一つのテーマは,前十字靭帯が完全損傷した後,一般的に自己治癒しないとされているその最大の理由として指摘されるScaffold(鋳型)の必要性について,検証することであった.これまで前十字靱帯の不十分な治癒反応はScaffoldがないことであると指摘されてきたが,我々のモデルでは同条件でも自己治癒した.そこで我々は,前十字靭帯の発達過程における前十字靭帯の形成過程解明から,課題解決アプローチを行った.結果として胎仔マウスの胎生14.5日に見られた単なる細胞の凝集が,約7日後の生後0日においては完全な前十字靭帯となっていた.今後,この過程のメカニズムを解明することで,完全損傷後の自己治癒への重要な示唆が得られると考えている.
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