研究課題/領域番号 |
18K17683
|
研究機関 | つくば国際大学 |
研究代表者 |
山本 竜也 つくば国際大学, 医療保健学部, 助教 (60724812)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 神経回路 / マカクサル / 脳の可塑性 / 第一次運動野 / 運動前野 / 小脳 / 運動麻痺 / 機能回復 |
研究実績の概要 |
中枢神経系損傷による運動障害が、残存するシステムにより機能代償されるメカニズムを理解する。第一次運動野は大脳皮質と脊髄とを結ぶ皮質脊髄路ニューロンを豊富に含む領域である。この領域に損傷を受けると運動麻痺が生じる。しかし、このような麻痺は回復することがある。マカクサルを用いた行動・脳領域・分子レベルの解析により、第一次運動野や皮質脊髄路を損傷した後にリハビリ訓練を行うと、手指の把握運動(特に手の巧緻性)が回復すること、その背景に大脳皮質運動関連領域(特に腹側運動前野)による機能代償があることが報告された。 これまで申請者は神経回路レベルの解析により、腹側運動前野から小脳核(特に室頂核)へと投射する経路が第一次運動野損傷後の機能回復時には増加することを、学会発表などを通して報告してきた。これらの知見は、損傷を受けた経路自体が再生しなくても、損傷による直接的な影響を免れた他の大脳皮質運動関連領域が代償領域として機能することにより運動機能が回復することを示唆するものである。本研究成果は、脳損傷後の機能代償に小脳が一役を担うことを世界で初めて神経回路レベルで示したものであり、2019年10月に国際誌に受理された(T Yamamoto et al., 2019, Journal of Neuroscience)。 また、上記研究過程においてマカクサルと齧歯類では小脳区分マーカーの発現パターンが異なることを発見し、その詳細を2019年11月に学会発表した(第24回日本基礎理学療法学会学術集会)。本研究成果は国際誌への投稿を現在準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、ヒトに近い身体構造・機能および高度に発達した大脳皮質を有したマカクサルを用いて、複数の運動関連領域と第一次運動野に局所的な損傷を作成し、残存したシステムが手の巧緻性を機能代償できなくなる損傷規模の限界点を検証するものである。2020年度には、損傷前後における精密把握動作の解析効率を向上させるために、モーションキャプチャ―を用いた解析手法を新たに考案・開発し、前段階実験として健常ヒト(成人および高齢者)における把握動作のデータを取得、解析を進め良好な結果が得られた。また、マカクサルの痙性を評価するための電気生理学的手法を確立させる検証実験をスタートさせ、こちらも良好な結果が得られている。 これまでに申請者は腹側運動前野から小脳核へと投射する経路が第一次運動野損傷後の機能回復時には増加することを見出した。本研究成果は国際誌に受理された(T Yamamoto et al., 2019, Journal of Neuroscience)。また、上記研究過程においてマカクサルと齧歯類では小脳区分マーカーの発現パターンが異なることを発見し、その詳細を国際誌に投稿する準備を現在進めている。さらに、健常マカクサルと第一次運動野損傷マカクサルとの間で腹側運動前野を起点とする経路の投射先を比較したところ、小脳核以外の脳領域においても神経回路の再編成が生じることを見出し、頭頂葉における再編成に関しては2021年に国際学会にて発表予定である。今後、本研究成果も国際誌にて報告していく。概ね当初の研究計画通りに進んでいるため『(2)おおむね順調に進展している』と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
損傷による影響を解析するための手法を確立させ、その後、把握動作トレーニング済みのサルに複合損傷を作成する。実際の臨床像に類似した運動麻痺モデルサルを作成するために、内包と被殻との複合損傷モデルの作成を現在検討している。今後は、把握動作の解析効率を向上させるために、モーションキャプチャ―を用いた解析法を確立させる。現在、データ補正プログラムを作成中であり、2020年度にはビデオ解析ソフトを購入し、把握動作解析法の信頼性を確認する。今後、磁気式モーションセンサーに本解析を応用させ、マカクサルにて検証できるように改良を進める。その他、マカクサル小脳区分マーカー発現に関する論文を国際誌に投稿する。さらに、第一次運動野損傷後に生じる腹側運動前野の神経回路再編成について、腹側運動前野-小脳核経路以外の経路に関しても引き続き検証を進め、その成果を国際学会や国際誌にて報告する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が32円生じたが計画通り使用できている。残額は次年度の消耗品購入などに充てる予定である。
|