研究実績の概要 |
中枢神経系損傷による運動障害が、残存するシステムにより機能代償されるメカニズムを理解する。第一次運動野は大脳皮質と脊髄とを結ぶ皮質脊髄路ニューロンを豊富に含む領域である。この領域に損傷を受けると運動麻痺が生じる。しかし、このような麻痺は回復することがある。マカクサルを用いた行動・脳領域・分子レベルの解析により、第一次運動野や皮質脊髄路を損傷した後にリハビリ訓練を行うと、手指の把握運動(特に手の巧緻性)が回復すること、その背景に大脳皮質運動関連領域(特に腹側運動前野)による機能代償があることが報告された。これまでに申請者は、神経回路レベルの解析により、腹側運動前野から小脳核(特に室頂核)へと投射する経路が第一次運動野損傷後の機能回復時には増加することを、学会発表などを通して報告してきた。これらの知見は、損傷を受けた経路自体が再生しなくても、損傷による直接的な影響を免れた他の大脳皮質運動関連領域が代償領域として機能することにより運動機能が回復することを示唆するものである。 本研究成果は、脳損傷後の機能代償に小脳が一役を担うことを世界で初めて神経回路レベルで示したものであり、2019年10月に国際誌に受理された(T Yamamoto et al., 2019, Journal of Neuroscience)。また、上記研究過程においてマカクサルと齧歯類では小脳区分マーカーの発現パターンが異なることを発見し、その詳細を2019年11月に国内学会(第24回日本基礎理学療法学会学術集会)にて発表し、現在国際誌への投稿を準備中である。さらに、小脳のみならず、頭頂葉においても神経回路の可塑的変化が認められることを見出し、その詳細を2021年7月に国際学会(The 44th Annual Meeting of the Japan Neuroscience Society)にて発表した。
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