本研究の目的は,歩行困難な患者に対して,立位での身体運動を動作分析によって評価し,歩行時に求められる機能を指標値として定量化する方法を開発することである.2018年度は,適切な課題と計測方法の策定,および指標値の作成を行った.健常者および模擬患者を対象とした検討から,片麻痺者の歩行阻害因子となる各種機能障害を立位課題の分析から定量的に表せることを確認した. 2019年度は,リハビリテーション目的で入院中の片麻痺患者37名(独力で歩行可能な者33名,歩行に介助を要する者4名)を対象とし,指標値の妥当性を検討した.計測課題は,歩行時の麻痺側遊脚相に求められる足挙上機能,麻痺側立脚相に求められる体重支持機能を測るため,立位において一側ずつ足を挙上させるものとした.検討の結果,足挙上機能については,麻痺側の足を挙上した際の股関節とつま先のマーカ間距離から算出される下肢短縮量が,麻痺の重症度や歩行速度,歩行時の麻痺側遊脚相における下肢短縮量と有意な正の相関を示した.一方,体重支持機能については,非麻痺側の足を挙上した際の骨盤の動揺を表す指標値が,麻痺の重症度や歩行速度,歩行時の麻痺側単脚支持期割合と有意な正の相関を示した.また,足挙上機能,体重支持機能を表す指標値はいずれも,歩行に介助を要する患者の指標値が,独力で歩行可能な患者に比べ低い傾向にあった. 本研究により,歩行に求められる麻痺側の足挙上機能や体重支持機能を立位での単純な課題にて定量的に評価することが可能となった.
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