関節可動域制限は主に関節周囲の軟部組織の伸張性や弾性の低下に起因して生じ,臨床場面ではこれに対してストレッチングが有効な介入方法として広く用いられている。しかしながら,ストレッチングがどの部位(組織)の伸張性を改善しているのか,またその伸張部位はストレッチング方法により異なるかどうかは未だ明らかではない。そこで本研究では,近年工学分野で発展している三次元変形・変位測定を,従来ストレッチングの効果判定に用いられてきた等速性運動機器および超音波エコーと併用することで,ストレッチング方法の違いによる伸張部位の違いを確認することを目的とした。本研究結果は,可動域の制限組織別に最善のストレッチング方法を提案するための基礎的資料となりうる。 平成30年度はスタティックまたはダイナミック・ストレッチングによる伸張部位の検討を行った。結果,1)どちらのストレッチング方法においても,実施後に関節可動域および痛みが生じる直前の受動トルクが増加し,受動スティフネス,腓腹筋内側頭における筋腹および腱膜の剪断弾性係数が低下すること,2)スタティック・ストレッチング実施後でのみ,腓腹筋内側頭における筋腱移行部の変位量が増加すること,3)スタティック・ストレッチング実施後の腓腹筋内側頭における腱膜の剪断弾性係数の低下率は,ダイナミック・ストレッチング実施後よりも大きいこと,4)スタティック・ストレッチング後の皮膚のひずみ量は他の評価指標の変化率よりもかなり小さいことを明らかにした。 令和元年度はスタティックまたはダイナミック・ストレッチングをそれぞれ単独または併用して施行した。結果,1)どのストレッチング方法においても,実施後に関節可動域および痛みが生じる直前の受動トルクが増加し,受動スティフネスが低下すること,2)それらの評価指標の変化の程度はストレッチング方法の違いによる差がないことを明らかにした。
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