研究実績の概要 |
①本研究計画では、嗅覚刺激による感情変化とそれに伴う顔面皮膚血流量の変化が、認知機能および大脳皮質脳活動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。今年度は10名の健康な成人(22.3±0.1歳)を対象に、嗅覚刺激時の顔面皮膚血流量(Facial SBF)をレーザー血流計によって計測し、主観的快・不快度との関係を調べた。同時に,近赤外線分光計を用いて前頭前野酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb)を計測した。嗅覚測定用基準臭(T&Tオルファクトメーター)における嗅覚の検知閾値、認知閾値、主観的快・不快度、主観的覚醒度、および主観的匂い強度を予め評価した。認知閾値での主観的聴取に基づいて、ピーチ臭を快刺激、靴下臭を不快刺激、無臭パラフィンを対照刺激として定義した。実験課題は背臥位、閉眼で2分以上の安静後、12秒間の嗅覚刺激、続いて3分以上の安静とした。嗅覚刺激は匂い装置を用いて流速10ml/secで12秒間鼻下に提示した。
②主観的快・不快度は靴下臭において有意に低下し,ピーチ臭において有意に増加した(-2.8±0.3,vs. 0.8±0.3)。Facial SBFは対照臭で変化しなかったが、ピーチ臭および靴下臭において刺激提示約12秒後から緩やかに増加し、約2分後にピークに達した後、減少傾向を示した。Facial SBF増加量は靴下臭においてのみ有意であった。前頭前野Oxy-Hbは靴下臭のみ有意に増加した。前頭前野Oxy-Hb増加量はFacial SBF変化量との相関を示した(y=0.42x+0.19,R=0.51,P<0.01)。また、主観的快・不快度は前頭前野Oxy-Hb増加量との相関を示した(y=-0.32x+0.26,R=-0.4,P<0.01)。
③健常成人において嗅覚刺激に伴う不快感情は顔面皮膚血流の増加反応および前頭前野血流量の増加を引き起こすことが示唆された。
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