脳と脊髄の同期的神経活動は、運動学習の定着や脳卒中後の運動機能改善に関与することが報告されている。本研究では、脳卒中者の歩行機能回復の促進を目的としたリハビリテーションとして、体外からの非侵襲的な電気刺激を用いて、脳と脊髄の同期的神経活動を修飾する手法の効果を検証することが目的である。 昨年度、刺激周波数の設定に対象者個々の脳と脊髄の同期的神経活動(脳波-筋電図コヒーレンス)のピーク周波数を使用した経頭蓋律動性直流電流刺激(otDCS)が脳と脊髄の同期的神経活動を即時的に高めることを明らかにした。一方で、その効果は持続しなかった。そのため,臨床応用するためには、より効果を持続させる方法を検討する必要がある。 今年度は、otDCSによる脳と脊髄の同期的神経活動効果を促進する手法として、微弱な電流を経皮的に腰背部に通電することで、末梢から脊髄神経の神経活動を変調することで、脳活動を修飾可能な経皮的脊髄直流電気刺激(tsDCS)に着目し、末梢神経からの感覚入力が運動パフォーマンスと中枢神経系経路に与える影響を健常者で検討した。 結果、10分間の陰極tsDCSは、足関節のバリスティックな底屈運動を促進した。一方で、偽刺激では変化を認めなかった。また中枢神経系経路に与える効果として、皮質脊髄路興奮性(運動誘発電位:MEP)を高める一方で、脊髄興奮性(H反射)は変化を認めなかった。さらに、陰極tsDCSは、皮質から脊髄への短潜時促通経路の活動を高めた。これらのことから、陰極tsDCSによる末梢神経からの感覚入力は、皮質興奮性を変調し、運動パフォーマンスを改善する可能性が示された。この結果をもとに、末梢神経からの感覚入力を増大し脳活動を変調するtsDCSが脳を刺激して得られるotDCSの効果を促進できるかどうか検証を開始する予定である。
|