研究課題/領域番号 |
18K17730
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小宅 一彰 信州大学, 学術研究院保健学系, 助教 (90803289)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 脳卒中後疲労 / 酸素摂取量 / 時定数 / 心拍出量 / 換気効率 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、昨年度から継続して、脳卒中患者の運動耐容能に関連する呼吸循環応答の分析および脳卒中後疲労と運動時呼吸循環応答の関係について研究した。 ①脳卒中患者の漸増負荷運動における呼吸循環応答の分析:漸増負荷運動中に得られる運動耐容能の指標として、最高酸素摂取量や換気性作業閾値が用いられる。脳卒中患者において、これらの指標に関連する呼吸循環応答を分析した。最高酸素摂取量および換気性作業閾値には、骨格筋代謝機能(動静脈酸素較差)ならびに循環機能(心拍出量)が関連し、特に骨格筋代謝機能が強く関連することが明らかとなった。したがって、最高酸素摂取量や換気性代謝閾値が低下した脳卒中患者に対しては、骨格筋代謝機能の向上を図る治療介入が必要であると考えられた。 ②脳卒中患者の定常負荷運動における呼吸循環応答の分析:定常負荷運動開始時に酸素摂取量の増加が定常状態に至るまでの時間(τVO2)は、運動耐容能の指標として用いられる。脳卒中患者におけるτVO2の遅延に関連する呼吸循環応答を分析した。その結果、脳卒中患者におけるτVO2の遅延は、循環応答の遅延による影響を受けることが示された。さらに、運動開始時に酸素摂取量の増加に対して心拍出量の増加が遅れる患者は、運動麻痺が重度で歩行速度が遅い傾向にあることが示された。 ③脳卒中後疲労に関連する運動時呼吸循環応答:脳卒中後疲労の評価に用いられる疲労スコアと運動中の呼吸循環応答指標の関係を解析した。疲労と相関するうつ症状を統計的に調整して解析したところ、脳卒中後疲労は、運動に対する呼吸循環機能の順応能力低下と関連することが明らかになった。呼吸循環機能の順応能力は、運動によって改善することが報告されている。脳卒中後疲労を有する患者は、日常生活での活動量が低下しがちであるため、運動療法の介入が必要であると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
運動耐容能にかかわる呼吸機能、循環機能、骨格筋代謝機能を包括的に評価する手法を確立し、脳卒中患者の運動耐容能低下の背景となる運動生理学的メカニズムを分析することができた。この研究成果は、国際誌にも掲載することができた(Oyake et al., PLOS ONE. 2019)。また、脳卒中後疲労に関連する呼吸循環応答の分析についても、データ測定を終え、論文投稿に向けての準備を進めている。さらに、呼吸循環応答の基盤となる自律神経機能と脳卒中後疲労の関係についても、縦断的検討まで視野に入れてデータ収集と分析を進めているところである。
|
今後の研究の推進方策 |
脳卒中後疲労と運動時呼吸循環応答の関係については、研究成果を論文にまとめ、国際誌へ投稿する。このように、これまでの研究では、運動負荷試験から得られる呼吸循環応答のデータと脳卒中後疲労の関係について検討してきた。しかしながら、重度な運動麻痺を有する患者は、運動負荷試験を行うことが困難であるために、研究対象とすることができなかった。そこで、呼吸循環応答の制御にかかわる自律神経機能に着目し、脳卒中後疲労との関係について解析する。自律神経機能の評価は、安静時における心拍変動や起立時に生じる血圧ならびに心拍数の変化を計測する。この方法により、運動麻痺が重度であっても起立動作が可能な患者であれば研究対象として取り込むことが可能になった。すでに研究は開始しており、30名程度のデータが得られている。これまでの解析において、脳卒中後疲労を有する対象者は、疲労のない対象者に比べて起立時における収縮期血圧の増加が大きいという結果が得られた(疲労あり6.3 ± 2.7 mmHg vs 疲労なし-6.3 ± 4.9 mmHg, p = 0.023)。目標症例数を100名としてデータ収集を継続し、運動機能やうつ症状など可能性のある交絡因子を制御した解析を行う。また、患者の入院前後で縦断的な評価を行い、経時的な脳卒中後疲労の改善や悪化に自律神経機能が関連するかを解析する。
|