研究実績の概要 |
本研究課題では、複数の小型センサの有機的統合に挑戦し、変形性膝関節症患者の階段昇降や歩行転換等の動的課題における機能的移動能力を非侵襲で評価可能なシステムを提案する。この計測システムを用いてコホート調査を行い、転倒を招きやすい運動器不安定症の発症予測アルゴリズム構築を最終目標とする。 初年度では以下の2点が明らかになった。(1)変形性膝関節症189名(平均年齢74.4歳;女性比78.0%)を対象に、転倒状況の調査ならびに転倒と関連する因子を探索した。41名(21.7%)が過去1年に転倒を経験していた。変形性膝関節症の中でも、中等度レベル以上の腰痛を有する者は複数転倒を経験し易かった(オッズ比:3.72;95%信頼区間:1.45, 9.58)。(2)センサを用いた運動器不安定症発症アルゴリズムの有効性を検証する上での比較対象を設定するため、変形性膝関節症59名(平均年齢59.1歳;女性比72.9%)を対象に、ストップウォッチを用いた階段昇降テストの信頼性・妥当性検証を行った。級内相関係数は信頼性で0.95(95%信頼区間:0.56, 0.99、妥当性で0.96(95%信頼区間:0.66, 0.99)と、高値を示した。しかし、ストップウォッチによる計測時間の関節症重症度判別能は低く、転倒や運動機能の予測能が低いことが示唆された。 上記(1)の結果は、変形性膝関節症患者における腰痛が転倒ひいては運動器不安定症の危険因子であることを示唆する。今後はコホート調査で腰痛-転倒の因果関係を同定するとともに、同時計測したセンサ解析結果と転倒ならびに運動器不安定症との関連性を検討していく。 上記(2)の結果は、ストップウォッチによる計測は高い信頼性と妥当性を示すものの、転倒を予測する上で、ストップウォッチ単独では不十分であることが示唆された。階段昇降中の転倒は骨折などの原因となり重症化し易いことから、階段昇降中に同時計測したセンサ情報と転倒との関連性を今後検討していく。
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