本研究課題では、複数の小型センサの有機的統合に挑戦し、変形性膝関節症患者の階段昇降や方向転換等の動的課題における機能的移動能力を非侵襲で評価可能なシステムを提案する。この計測システムを用いてコホート調査を行い、転倒を招きやすい運動器不安定症の発症予測アルゴリズム構築を最終目標とする。 昨年度で変形性膝関節症患者における腰痛が転倒ひいては運動器不安定症の危険因子であるとの結果を得た。腰部に取り付けた小型の慣性センサは簡便かつ非侵襲で歩行時の体幹の加速度や角速度を計測でき、これらのセンサ情報と腰痛との関連性が過去に示されていることから、今年度はこの慣性センサで転倒、運動器不安定症の予測に挑戦しようとした。しかし、腰部の慣性センサによる解析手法は多種多様であったため、今年度はまず慣性センサを用いた解析手法に関するシステマティックレビューを行い、現状の解析手法の特徴やその限界について整理した。データベース検索から588編の論文を収集し、含有基準に合致した14編を最終的に選択した。これら14編の論文から計15種類の異なる解析アルゴリズムを同定した。これらの解析アルゴリズムは歩行中の倒立振り子モデルを理論的背景として構築されていた。しかしながら、実際の臨床現場で計測対象となるような中枢神経疾患や運動器疾患に関するデータ蓄積が不足しており、今後の研究に向けた課題が浮き彫りとなった。研究再開後には、これらの患者群を対象とした解析アルゴリズムを確立するとともに、慣性センサを用いた歩行診断によって運動器不安定症予備群の同定を試みる。
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