四肢の一部の不動、あるいは安静臥床に伴う全身の不活動が痛みを惹起することが明らかになっている。この不活動に伴う痛みは運動器慢性疼痛の発症原因の一つと考えられ、今後さらなる高齢化社会に向かう我が国において、大きな社会問題になることが予想される。我々はこれまでに、ラットの足関節をギプス固定した不活動性疼痛モデルにおいて、侵害受容性一次求心性神経の伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の発現が脊髄後角において増加することを報告している。しかし、後根神経節細胞で産生されるCGRPの95%が神経終末から末梢性に放出されることを考慮すると、脊髄よりも末梢組織での作用が大きいと考えられる。今年度は、不活動性疼痛における末梢性CGRPの関与を行動薬理実験により調べた。実験モデルとして、ラットの左足関節を4週間ギプス固定し、不活動性疼痛モデルを作製した。行動薬理実験では、固定期間終了後、固定側の足底皮下にCGRP受容体拮抗薬(CGRP8-37)を投与し、機械刺激に対する逃避閾値の測定(von Frey test)と熱刺激に対する逃避潜時の計測(Hargreaves’test)を行った。その結果、固定開始後1~4週間において、機械逃避閾値および熱逃避潜時は顕著に低下・短縮し、不活動性疼痛の発症を確認した。この低下した機械逃避閾値はCGRP8-37の皮下投与により上昇した。また、短縮した熱逃避潜時は拮抗薬投与により延長した。この結果から、不活動性疼痛モデルの機械・熱痛覚過敏には末梢組織でのCGRPが関与することがわかった。
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