本研究では,自閉スペクトラム症(ASD)児の触覚の感覚特性とくすぐり遊び中の対人的反応に着目し,養育者とのくすぐり遊び中の行動反応と視線の特徴について検証を行ったきた.対人的行動反応については6つの行動観察指標を開発し,それらに基づく分析を行ってきた.具体的には,ASDの重症度に関する指標(SRS-2対人応答性尺度)と感覚の特性に関する指標(感覚プロファイル短縮版)との関係性を検証するとともに,生理的指標として安静時の迷走神経活動についても関係性の検証を行った.探索的研究の段階ではあるものの,一部の行動観察指標では、ASDの重症度、触覚の過敏性,迷走神経活動との関連性を示唆する結果が確認されている.これらの成果は現在,学術論文にまとめて投稿し,査読中となっている. 視線に関しては,社会性に関するASDの重症度 (SRS-2対人応答性尺度のSCIの得点) と顔領域への視線移動回数に有意な関係性が確認されている.この結果に関しては,「第129回日本小児精神神経学科」で成果報告を予定している.また,対象児の視線の特徴に加えて保護者の関わりについても個々の事例で検証を行った.その結果,くすぐり遊び中に養育者の顔領域への注視回数が多くみられたASD児では,養育者が子どもの視線を捉えようとする行為がより多く観察されており,この様な保護者の関りがASD児との非言語的コミュニケーションに有効である可能性も示唆されている.ただし,本研究で得られた知見は探索的段階にあり,特に視線の計測に関しては一部の対象児では計測ができておらず,限られた対象のデータ解析となっている.自閉スペクトラム症児の傾向を明らかにする上では,今後引き続き対象者数を増やし研究を継続する必要があると考えている.
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