本研究の目的は、類似した集合の中から特定の対象を探索する新たな課題(文字検出課題)を開発し、その課題遂行の成績、および課題遂行中の視線運動の特性を、健常な研究協力者を対象として検討することである。本研究で作成した文字検出課題は、形状が類似している文字の中から他と異なる1文字を検出する課題であり、課題遂行に要する時間が短い課題(低難易度課題)と長い課題(高難易度課題)を作成した。本研究は、大きく2つの段階に分けて実施された。段階1では、健常な研究協力者に作成した文字検出課題の実施を求め、課題遂行に要する時間を計測した。また文字検出課題の実施と合わせて、臨床でも使用されている神経心理学的検査を実施し、文字検出課題との関係を検討した。段階2では、文字検出課題を遂行する際の視線運動を計測し、類似した集合の中から特定の対象を探索する際の視線運動の傾向を検討した。 段階1の結果、高難易度課題において、探索する対象を提示する領域により課題遂行に要する時間が異なることが明らかとなった。一方で、神経心理学的検査と文字検出課題の間に、相関は認めなかった。また段階2の結果、段階1と同様、高難易度課題において、探索する対象を提示する領域により、課題遂行に要する時間が異なった。加えて、視線運動計測で得られたデータを解析した結果、高難易度課題だけでなく低難易度課題を実施した際にも、探索する対象を提示する領域により、視線運動に偏りが生じることが明らかとなった。低難易度課題において、探索対象を提示する領域による課題遂行に要する時間の変化は認めず、視線運動計測では行動実験と異なる特徴が示された。
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