今年度は、これまでに得られた研究成果に基づいて、地域在住高齢者を対象に課題難易度に着目したバランストレーニングの効果検証を実施した。使用したバランス課題は、課題難易度の調整が可能な不安定板上での立位保持とした。このバランス課題の成績は、地域在住高齢者の過去1年間の転倒発生と関連することが既に明らかとなっている(2018年度研究成果)また、このバランス課題を繰り返し練習することで、課題遂行成績が長期的に向上することから、トレーニングによって運動学習が生じることも明らかとなっている(2019年度研究成果)。地域在住高齢者40名を課題難易度が高く調整された高難易度群と、課題難易度が低く調整された低難易度群に無作為に振り分け、それぞれの条件に沿ったバランストレーニングを実施した。トレーニング前およびトレーニング24時間後には、トレーニング効果を判定するためのテストを実施した。トレーニング終了直後には、メンタルワークロードの指標であるNASA-TLXを用いて主観的課題難易度を測定した。その結果、高難易度群のトレーニング期間中におけるバランス課題の成績は、低難易度群の成績よりも有意に低いことが示された。また、トレーニング前のテスト(プレテスト)においては両群のバランス課題の成績に有意差は認められないものの、トレーニング24時間後のテスト(保持テスト)においては、低難易度群が高難易度群よりも有意に優れた成績を示すことが明らかとなった。さらに、NASA-TLXの下位項目の一部がトレーニング期間中の課題遂行成績と有意に相関するとともに、プレテストから保持テストにかけての変化率(学習率)と有意な関係を示した。以上より、地域在住高齢者を対象としたバランストレーニングでは、対象者の能力に合わせて課題難易度を調整することで運動学習が促進され、トレーニング効果が高まることが示された。
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