我々は過去に、糖尿病ラットにおける運動ニューロンや筋の障害は速筋・遅筋といった筋のタイプに強い影響を受け、筋線維の萎縮は速筋線維に強く観察される一方、運動ニューロン障害は遅筋を支配する運動ニューロンに生じやすいことを明らかにしてきた。糖尿病患者に対する運動療法は一般的に遅筋を標的とする有酸素運動と、速筋を標的とするレジスタンス運動が推奨されているが、糖尿病ラットの速筋や遅筋、それを支配する運動ニューロンに観察される、まだらな障害に対する効果は明らかになっておらず、適した運動様式も不明である。そこで、2020年度までにトレッドミルを使用し、低負荷運動を長期間(12週)実施し、糖尿病モデルラットで観察される速筋優位に生じる筋張力減少と遅筋優位に生じるやHalf-relaxation timeの延長に代表される収縮弛緩時間の延長に有酸素運動が与える影響を検討した。2021年度はそれに加え、主に低負荷運動が糖尿病で生じる運動ニューロンの形態学的な変化に及ぼす影響を調査した。その結果、糖尿病によって速筋に生じる筋張力減少や運動ニューロンの形態変化に対しては低負荷運動の明らかな効果は観察されなかった。一方で遅筋で観察される収縮弛緩時間の延長が低負荷運動によって有意に改善し、対照群と同等の値を示した。また、遅筋を支配する運動ニューロンの減少も低負荷運動によって一部改善が認められた。これは、低負荷の有酸素運動が糖尿病に起因する遅筋で生じる筋の収縮特性の変化や運動ニューロンの形態学的な変化を抑制する可能性を示唆するものである。その機序は不明であるが、低強度運動で活動が期待される遅筋で運動の効果が観察され、速筋にはその効果が認められなかったことから、運動の実行に関連した保護作用が影響していると推察される。
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