研究課題/領域番号 |
18K17783
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
福士 勇人 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部), 電気生理学研究室, 共同研究員 (20738497)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 間脳 / 摘出間脳下部脳幹脊髄標本 / 呼吸リズム / 膜電位イメージング / 呼吸困難感 |
研究実績の概要 |
呼吸困難感とは,呼吸を行うことが容易ではないという感覚,あるいは呼吸に伴う不快感・苦痛をいう.慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患に罹患した患者は,日常生活で呼吸困難感を苦痛と感じることが少なくない.呼吸困難感は,呼吸器疾患患者では特に労作時に増強し,患者の活動量を低下させ,QOL低下を引き起こす要因となる.そのため,患者の呼吸困難感を軽減させることは,呼吸リハビリテーションの実施上,極めて重要である.しかし,呼吸困難感の知覚機序は未だ十分には解明されておらず,呼吸困難感の緩和法も十分には確立されていない. 本研究では,呼吸困難感の知覚機序について,「下部脳幹部の呼吸中枢からの出力指令であるmotor commandと実際に実現された換気運動の大きさ・タイミングのミスマッチを大脳が感知した時に呼吸困難感が知覚される」という仮説を提唱し,その場合に存在するはずの「延髄で形成された呼吸活動運動指令の上行性コピー投射」を実証することを目的としてきた.具体的には,(1)間脳で呼吸リズムに同期して活動する領域を同定すること,(2)同定した領域が延髄の呼吸リズム形成機構と解剖学的につながっているかを組織学的に確認することを目標として実験を行ってきた. 本年度は,間脳の一部である視床下部において呼吸リズムに同期して活動する領域を複数箇所検知することができ,その領域と延髄が解剖学的につながっていることを組織学的に確認することができた.すなわち,上記(1)と(2)について目標を達成することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において,本年度は(1)摘出間脳下部脳幹脊髄標本を用いた膜電位イメージング解析,およびパッチクランプ法を用いたニューロン計測を行い,呼吸に同期して活動する領域の同定を進めること,(2)上記検討で同定した領域が延髄の呼吸リズム形成機構と解剖学的につながっているかを,順行性神経トレーサーを用いた組織学的解析により確認することを目標にしてきた.本年度は,主に膜電位イメージング解析を用いた実験により,視床下部において呼吸リズムに同期して活動する領域を同定することができ,同定した領域が延髄の呼吸リズム形成機構を含む吻側腹外側野と解剖学的につながっていることを組織学的解析により確認することができた.これらのことから,現在,本研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画で当初目標にしていた「摘出間脳下部脳幹脊髄標本を用いた膜電位イメージング解析により,間脳で呼吸リズムに同期して活動する領域を同定すること」には成功したので,今後は,(1) 呼吸リズムに同期して活動する領域のより高精度な同定,(2)呼吸活動に同期して活動する領域についての組織学的検討,(3)延髄呼吸リズム形成機構からの上行性神経投射の解剖学的検討を進めていく予定である. (1)はパッチクランプ法を用いて進めていく予定であるが,パッチクランプによるニューロン活動の計測にあたっては,パッチ電極内に細胞内トレーサーbiocytin を含めておき,計測を行った細胞体の染色を行う予定である.(2)については,膜電位イメージジング解析およびパッチクランプ法に用いた摘出間脳下部脳幹脊髄標本から組織標本を作製し,これらの計測で呼吸に同期した活動を呈した領域やニューロンの解剖学的同定を行っていく予定である.(3)は若年成熟ラットを用いて,順行性神経トレーサー(ビオチン化デキストランアミン・BDA; Invitrogen)による組織学的解析により進めていく予定である.具体的に(3)では,呼吸リズム形成領域である延髄のpreBotzinger Complex領域にBDAを微量注入し,1週間後にBDA をDAB 発色させてBDA を含む軸索の存在部位,すなわち延髄のpreBotzinger Complex領域のニューロンが投射する領域を解剖学的に解析し,同定したうえで,この解析で同定された領域と,膜電位イメージング解析およびパッチクランプ法で同定された呼吸リズムに同期した活動を呈する間脳の領域とが一致するか検討していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: 次年度使用額が生じたのは,物品費,旅費,その他の各支出額が,研究代表者の工夫により当初の予算額より抑えられたためである. 次年度使用計画: 次年度にさらに精緻な結果を得るための実験およびその成果発表を行う予定のため,次年度使用額は次年度に有効に使用される予定である.
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