本研究の目的は、大気中に浮遊する粒子状の大気汚染物質及び気象条件の変化が喘息体質者の運動時の肺機能及び炎症性反応に及ぼす影響を全国規模で疫学的に検証することである。全国の複数の道県にて、学校やスポーツ現場等で行われるような運動(主観的に「ややきつい」強度の6分間のフリーランニング)を四季で実施し、季節と地理的環境要因によって変化する大気汚染物質濃度と喘息体質者の運動時の各測定指標変化の関係性の検証を試みた。 2018年度は、新たに導入した炎症性反応指標の呼気中一酸化窒素(以後、呼気中NOと記す)測定器を用いて基礎的な運動負荷試験を行った。喘息体質者の安静時(運動前)の呼気中NOが顕著に高いこと、他のアレルギー疾患を併発している場合にそれが顕著であること、運動後の呼気中NOの一過性の変化に共通性がみられる可能性が観察された。また、夏季と冬季に鹿児島県で実施した調査では、喘息体質者の運動後の指標変化に火山灰の影響がある可能性は示唆された。一方、秋季からの四季に渡る調査は、自然災害と人為的災害によって行えず、翌年の2019年夏季に調査準備を整え直し、秋季及び冬季(2020年)に3道県で調査を実施した。肺機能指標は我々の先行研究通りの結果、呼気中NOは上記基礎実験と同様の結果を示した。しかしながら、COVID-19の影響を受け春季と夏季の調査は行えず、研究は中断した。2020年度は情報収集と研究成果の公表に努めた。 延長期間の2021年度も緊急事態宣言の影響から実験的手法によるフィールド調査は実施できなかった。その一方で、アンケートによる調査法を考案し、予備調査を実施できた。生体指標の変化は検証できないものの、喘息体質者の集団特性と大気汚染物質の季節差、地理的環境差等の関係性を把握できる内容になり、当該研究テーマへの有用なアプローチになるものと考えられ、本研究課題の一成果になった。
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