研究実績の概要 |
本研究は、ストレス感受性が高いBALB/cマウスにとってストレスになりにくい運動条件を一過性および長期トレーニングの両面から検討し、さらにそのストレス調節に関与しうる神経基盤を解明することを目的としている。昨年までの研究において、一過性の低強度および高強度のトレッドミル走運動(TR)によってストレスホルモンの1種であるコルチコステロン(CORT)の血中濃度が上昇する一方、回転ホイール運動(WR)ではCORT濃度の上昇が見られないことを報告した。 この結果を受けて、当該年度の研究では、低強度TR(10 m/min, 30 min)とWR(走行距離を低強度TRと揃える, 時間は各個体に依存)の条件で、血中CORT濃度の変化に加えて、運動強度、経時的な血中乳酸値の変化、脳のストレス中枢である視床下部室傍核(PVN)の神経活動の違いを検討した。WR群の運動強度(=走速度)を個別に算出し平均化したところ、14.4 m/minと低強度TR群の走速度よりも早く、強度が強かった。また安静群と比較して、低強度TR群とWR群の両方で、運動直後の血中乳酸値の有意な上昇が認められた。一方、運動直後の血中CORT濃度とPVNのc-fos陽性細胞数(神経活動マーカー)は、低強度TR群でのみ有意な上昇および増加が確認された。これらの結果は、BALB/cマウスでは、運動強度に関係なく強制(受動)的な運動によってPVNを起点とするストレス反応の亢進が引き起こされ、一方、自発(能動)的な運動ではストレス反応が惹起されないことを示している。この結果を今後学会で発表するとともに、今後、運動様式によってストレス受容が異なる背景にどのような脳機構が関与しているのか解析を行い、論文化する予定である。
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