投てき物や打具を適切な力加減で操作しようとする競技種目には、「無意識的な筋活動の乱れ」によって、今までできていた比較的簡単なプレーができなくなるイップス(Yips)と呼ばれる運動障害が存在する。ボール投げ動作におけるイップス(投球イップス)は、目標とはかけ離れた方向へ投球してしまうもので、動作に習熟したはずのプロ選手でも発症し、完治できずに競技生活を断念する例も度々報道されるが、どのような「筋活動の乱れ」が起こっているかは本人にも分からない。そこで本研究の目的は「ボールリリースの繊細なタイミング制御とその乱れに関与する手指筋群の筋活動動態を明らかにすること」とした。 これまでの分析の結果、投球コントロールのばらつき具合には投球イップス有訴者間でも個人差があることが分かった。またリリースに向けてボールを加速させる軌道が大きくばらつく者、軌道そのものはおおむね一定だがリリースのタイミングがばらついてしまう者など、投球動作にも相違があった。大きくコントロールを失った投球をした際に、拇指を司る筋に特異的な筋活動の現れる被験者もおり、それぞれの投球イップスの原因動作、原因筋を見極められる可能性が高まった。コロナ禍において研究の進行が遅れていたが、前年度の学会発表を踏まえ、本年度は論文の執筆を行った。現在投稿準備中である。 本研究によって、正確なボールコントロール技術の獲得に向けたトレーニング法策定、経頭蓋直流電気・磁気刺激療法を含めた投球イップスの改善法策定など、 競技パフォーマンスの向上に繋がる重要な知見を得られるものと考えている。
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