チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)は、膵臓β細胞においてアポトーシス(細胞死)を亢進させる分子である。老化にともなって進行する骨格筋や脳のアポトーシスは、サルコペニア(骨格筋の萎縮)や認知症(脳の萎縮)の発症につながると考えられている。そこで、老化にともなう骨格筋や脳の萎縮にTXNIPが関与している可能性について検証した。 16ヵ月齢のC57BL/6雄性マウスを22ヵ月齢まで飼育し、老齢コントロール群とした。老齢コントロール群の半数は、飼育最終1ヵ月を自発回転輪付ケージで飼育し自発運動トレーニングを負荷することで老齢運動群とした。同様に、2ヵ月齢のC57BL/6雄性マウスを8ヵ月齢まで飼育し、若齢コントロール群とした。若齢コントロール群の半数も飼育最終1ヵ月を自発回転輪付ケージで飼育し若齢運動群とした。飼育終了後にすべてのマウスから骨格筋(ヒラメ筋、上腕三頭筋)ならびに脳(海馬)を採取し、TXNIPタンパク質発現量ならびにカスパーゼ3の活性(アポトーシスの指標)を評価した。 ヒラメ筋および上腕三頭筋においては、老化や運動トレーニングはTXNIPタンパク質発現量ならびにアポトーシスに影響を及ぼさなかった。一方、脳においては、老化にともなって海馬のTXNIPタンパク質発現量が増加し、運動トレーニングは海馬のTXNIPタンパク質発現量を有意に低下させた。しかし、海馬におけるカスパーゼ3の活性に老化や運動は影響を及ぼさなかった。 本研究の結果から、脳のTXNIPは骨格筋に先立って老化の影響を受ける可能性が示され、運動トレーニングは脳のTXNIP発現量の増加を抑制する可能性が示された。
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