安静時の筋の弾性は、傷害の発生要因と関連させて議論されることが多かった。近年では、安静時の筋の弾性や関節のスティフネスと爆発的な運動パフォーマンスの関係が示唆されている。本研究では、1)安静時の筋の弾性と静的・動的な運動パフォーマンスとの関係を精査すること、および2)安静時の筋の可塑性について検討することを目的とした。 健常な成人男女27名を対象とした実験では、内側腓腹筋の安静時弾性と等尺性足関節底屈運動の関節トルクの立ち上がり率(RTD)に正の相関関係が見られた(r = 0.460-0.496)。健常な成人男性24名を対象とした実験では、内側腓腹筋の安静時弾性とドロップジャンプのパフォーマンスに正の相関関係が見られた(r = 0.414)。これらの結果は、安静時弾性が高い(筋が伸びにくい)ほど、爆発的な運動パフォーマンスが高いことを示唆するものであった。また本研究では、筋への機械的なストレスが安静時弾性を高めると仮定し、8週間のドロップジャンプトレーニングが内側腓腹筋の安静時弾性に影響を及ぼすか否かについて検討した。その結果、予想に反して、安静時弾性は低下した一方で、等尺性足関節底屈運動時のRTDは変化しなかった。以上のように、横断研究と縦断研究では一致した見解が得られず、個人内において安静時弾性の変化が運動パフォーマンスに影響を及ぼす可能性は低いと考えらえた。今後は長期間の介入や筋の収縮様式に着目した検討が必要であろう。
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