研究課題
経頭蓋直流刺激は中枢神経回路の興奮性を変調させることができる手法であり、経頭蓋直流刺激が骨格筋の疲労を軽減させる効果があることが示唆されてきた。しかしながら、その神経メカニズムは明らかにされていない。本研究の目的は、経頭蓋直流刺激が骨格筋の持久的パフォーマンスに及ぼす影響を明らかにすることである。初年度では、経頭蓋直流刺激が第一背側骨間筋の皮質脊髄路興奮性および筋持久力に与える影響を調べるための実験を進めた。実験は、成人男性10名に経頭蓋直流刺激を与え、その前後で第一背側骨間筋の運動誘発電位および随意最大収縮での等尺性筋力を計測した。等尺性筋力は等尺性収縮での第一背側骨間筋の外転筋力とした。運動誘発電位は、経頭蓋磁気刺激を用いて誘発した。経頭蓋磁気刺激の刺激位置は、ナビゲーションシステムを用いて同定され、実験を通して同じコイル位置を固定した。経頭蓋直流刺激は、2mAの刺激強度で10分間被験者の第一次運動野に刺激を与えた。経頭蓋直流刺激後、被験者は等尺性収縮での第一背側骨間筋の最大下筋力を疲労困憊になるまで長時間発揮した。筋収縮の継続時間を筋持久力の指標とした。なお、経頭蓋直流刺激の条件は直流刺激条件の他に、プラセボ条件として疑似刺激条件を設けて、別日に実験を実施した。筋持久力は疑似刺激条件と比べて、直流刺激条件の方が低値になる傾向が見られた。筋疲労後に、第一背側骨間筋の運動誘発電位は低くなった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初、第一背側骨間筋の筋力を測定する装置は、高精度のフォースセンサを新たに導入する予定であったが、対象者間の筋力のばらつきが想定よりも大きかった。そのため、研究室にすでに配備してあるフォースセンサを代用して筋力測定器を自作して、研究計画通り実験を進めることができた。また、研究室に経頭蓋磁気刺激のナビゲーションシステムが配備されたことも研究計画の進捗に大きく寄与した。本研究計画では、第一背側骨間筋から再現性高く運動誘発電位を誘発する必要があった。ナビゲーションシステムを用いることでこの技術的な課題を解決することができた。研究計画では、第一背側骨間筋の持続的収縮の直後まで、中枢性回路の興奮性を評価する予定であった。しかし、初年度に実施した研究では、持続的収縮後30分まで中枢性回路の興奮性を評価した。その結果、経頭蓋直流刺激が筋持久力に及ぼす影響に加えて、中枢性疲労の回復過程に及ぼす影響についても明らかにする研究に成り得る可能が生まれた。以上、実験機器と研究計画の改善により、初年度の研究は当初の計画以上に進展していると評価することができる。
初年度では被験者10名を対象に実験を行ったが、被験者間における測定値の変動が予想以上に大きかった。そのため、同実験について被験者20名を目標に実験を進捗させる予定であり、想定以上の数の対象者を募集する必要がある。今後は、持続的筋収縮に前後における測定に加えて、筋収縮中の測定も新たに試みるつもりであり、初年度の研究遂行と並行して研究を実行していく。筋収縮時における中枢神経回路の興奮性の評価は、安静時のそれと比べて、経頭蓋直流刺激の強度を低く設定することができる。そのため、安静時の評価が可能であった対象者からは問題なく計測可能であると考えられる。
当該年度の所要額のほとんどを当該年度中に支出したが、一部を翌年度に請求した。請求した助成金は次年度に消耗品費として使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
PLOS ONE
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