脊髄損傷者は環境温に依存して深部体温が変動することが知られており,寒冷環境においては深部体温が健常者よりも低下し,暑熱環境では深部体温は上昇することを示してきた. これまでの実験では、脊髄損傷者の深部体温の変動ならびに健常者との深部体温との比較に、直腸温計を採用してきた.これらは、体内の温度を直接計測することが可能であるため、体温の研究には多く使用される.しかしながら脊髄損傷者においては、皮膚が弱いところもあり、コード類による褥瘡等のリスクが小さくない.したがって、胸部に装着することによって心拍数と皮膚温から深部体温を予測する機器を追加し、暑熱環境下における計測を行なった. 被験者は頸髄損傷者(C5)であり、車椅子の自走はできないものの、電動車椅子の操作が可能な者であった.実験はすべて9月初旬に実施した.外気温は35.6℃、湿度は55%の環境で、座位安静で30分間とした.袖と裾が短い衣類を着用する条件、袖と裾が長い衣類を着用する条件、袖と裾が長い衣類を着用し、さらにクーリングベストを着用する条件の3試行実施した.すべての試行前後に室温27℃、湿度50%の屋内にて30分間の安静を保った. これまでの研究と同様に環境温に依存し、深部体温が著しく上昇したが、袖の短い衣類の場合、輻射熱の影響を大きく受けることによって、平均皮膚温が急激に上昇し、それに伴って深部体温も上昇した.C5損傷の場合、麻痺部における発汗作用は機能を失っていること、また血管運動も機能不全を伴っていることから、輻射熱の影響は甚大である.しかしながら、輻射熱から皮膚を保護することによって、皮膚温の上昇は軽減され、深部体温の上昇も抑制された.また、クーリングベストを着用させることによる身体冷却の効果は、健常者と比較すると小さいものの、一定の効果を得た.
|