研究課題
本研究は、筋の硬さを低減させる手法によって一時的に硬くなった筋の回復(リカバリー)の過程を比較するものである。今年度は、昨年度明らかにした項目を除き、1)硬くなった筋からの回復は手技の実施によって加速するか?、2)両手技の繰り返しは回復の加速に影響するか?、3)回復した筋の硬さはパフォーマンスの向上に寄与するのか?の3点に関する検証を行った。昨年度から装置開発について検証を重ね、既製品では3~5度の範囲でのみ設定可能な可動性を0.1度~0.5度毎にて実現した。また、社会実装を想定して複数の試料の中から硬化プラスティックを採用し、安価に作成できるよう配慮した。この装置を今年度の実験に用いた。対象とする筋は先行研究に従い、スポーツ障害が集中する下肢の腓腹筋を対象とし、同じ(ランニング)動作を長時間反復するフルマラソン競技を対象種目とした。筋の硬さ評価にはshear waveエラストグラフィ機能が搭載された超音波装置を用いた。被験者は健常学生18名で、グループを2つに分け、一方のグループにはマラソン完走後に足首を背屈するストレッチング手技を1週間実施させた。もう一方のグループはストレッチング手技を実施しない対照群として設定した。各種測定は、これまでの知見に従いフルマラソン開始前、1日後、3日後、8日後に行った。その結果、ストレッチング群に硬さの改善効果、つまりストレッチングを繰り返すことでリカバリーが加速する傾向が確認できた。パフォーマンスとの関係や、上記指標の群間の差について現在詳細な解析を行っているものの、対照群との間は軽微で、手技を実施してもなお硬化した筋のリカバリーを加速化させる可能性は高くはない可能性がある。マラソン後に筋が硬化する要因は多岐にわたるが、水分損失の影響が大きい可能性があるため、詳細解析の際には水分損失に関係する筋内水分量や尿などの要因も含めて検討する。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していた4つの研究課題を完遂するためのスケジュールを昨年度に引き続き順調に進めることができた。対象とするマラソン競技大会は、その開催が11月末と決まっていることから当該年度も事前に実験設定を詳細に設定することができた。スケジュール以外の点では、昨年度導入した"データ取得後すぐに解析しなければならなかった機能"を後日解析できるようにシステム化できたことも実験現場において大きく貢献している。これらの大小の理由の積み重ねにより計画以上に研究が進展しており、論文執筆も同時進行している。新たな要因を加えた解析についても検討する予定である。具体的には、硬化した筋の硬さに与える因子が絞られてきたこともあり、【研究実績の概要】で述べたように、当該年度に実施した手技よりも水分損失を補う方策もまた高い効果を得られる可能性を見出すことができた。したがって、当初の計画にはない追加の知見を得るべく発展的に研究を進めていく。これらの理由により、当初の計画以上に進展できている。
当該年度得られた知見の公表に優先順位を置き、まずは知見を内外に広く発信していく。取得できたデータの中で解析がやや遅れているパフォーマンス指標との関係性についての詳細解析に着手し、整理できた時点でこれまでの知見を総説論文としてまとめる作業についても取り掛かる。また、同時進行で追加の解析を発展的に進めていく。【研究実績の概要】で述べたように、着目するのはマラソンによって失われた水分損失で、筋の硬さ変化に大きく影響を与えるであろうこの因子について、細胞の内・外水分量や体外へ排出された尿などの試料を用いて、これまで取得したデータとの相互作用などを多角的に検証するための追加解析を実施する。次年度は本研究の最終年度となるため、1)上述のように得られた知見を原著論文として執筆すること、2)1)の知見をまとめ整理し総説論文として公表すること、3)今後のさらなる可能性について関連する領域の専門家とのパイプを事前に構築していくこと、4)開発された製品に関する知見を実装すること、5)他隣接分野への応用できるよう体系的に成果をまとめる、など、当初からの研究計画・研究デザインに示した社会還元する取り組みを推し進める。
<理由>集中したデータ取得と海外学会での成果発表のために交付申請時の内訳を一部変更して使用した。そのため、消耗品等が次年度使用額となった。<使用計画>追加のデータ解析に必要な消耗品に使用する予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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