近年の研究により、身体活動は加齢に伴う認知機能の衰退予防だけでなく、子どもから青年期においても認知機能を改善、発達させるための1つの手段となり得ることが報告されている。しかし、身体活動が脳構造や機能に与える効果に関する知見は乏しい状況にある。磁気共鳴画像 (MRI) を用いた研究により、身体活動は前頭前野背外側部や海馬の体積を増大させることが報告されているものの、脳の機能レベルで身体活動の効果を理解するためには、脳領域間の解剖学的ならびに神経活動レベルでの繋がりの変化を調べる必要がある。 そこで本研究では、近年公開されたMRIで脳の構造・機能をより正確かつ詳細に計測・解析できる Human Connectome Project (HCP) 準拠のプロトコールで撮像したMRIデータ、ならびに解析パイプラインを用いて、20歳から60歳の健常者を対象に身体活動量と認知機能の成績に関わる脳の構造・機能的領域間結合の関連を詳細に検討し、身体活動が認知機能を改善、発達させる背景にある神経ネットワークの変化を明らかにすることを目的とした。 令和4年度には、運動習慣および体組成と脳の構造的・機能的変化の関係を分析した。その結果、運動習慣と体組成は大脳皮質の微細構造(神経突起密度・方向散乱)および大脳半球間の機能結合と強く関わることが示された。 研究機関全体を通じて実施した研究により、身体活動は疎でシンプルな神経回路の形成を介し、認知機能の向上と関わることが示唆された。
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