本テーマの最終目的は、筋運動後における血管内皮機能の低下を予防・回復させる新規の運動プログラムを開発することである。この目的に対して、当該年度では筋運動に伴う血管内皮機能の変化の性差を検討した。 まず実験1では、健康な男女29名を対象とし、相対的に同一強度(最大筋力の65%)での筋運動の前後において上腕動脈の血流依存性血管拡張反応(Flow-mediated dilation: FMD)および血圧を測定した(血圧は運動中も測定)。なお、すべての女性は前卵胞期に実験を実施した。その結果、筋運動中の収縮期血圧は男性が女性に比較して有意に高値を示した。また、男性はレジスタンス運動後にFMDが有意に低下した(血管内皮機能が悪化した)が女性では変化がみられなかった。 実験1の結果から、相対的に同一強度で筋運動をした場合、男性のみで血管内皮機能が悪化する事が明らかになった。また、この血管内皮機能の男女差には筋運動中における血圧応答の差異が関連している可能性が示された。そこで実験2では、男性における筋運動中の血圧上昇が血管内皮機能の変化に及ぼす影響を検討する事を目的とした。 実験2では、実験1に参加した男性16名を対象に、筋運動中の血圧応答を実験1における女性の血圧応答と同様まで下げた場合の血管内皮機能の変化を検討した。血圧応答を男女間で合わせるため、筋運動の強度を最大筋力の25%まで下げた。その前後において上腕動脈のFMDおよび血圧を測定した。その結果、筋運動中の収縮期血圧は男女間で有意差はみられなかった。また、男性は筋運動後にも関わらずFMDが低下せず、男女間で有意差は認められなかった。 以上の結果から当該年度では、筋運動をした場合、血管内皮機能の悪化は男性のみでみられる事、その機序には筋運動中の急激な血圧上昇が関連する事が明らかになった。
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