本研究課題の目的は、経営学における製品開発論に着目し、如何にすればプロスポーツ組織のフロントスタッフ(球団職員)は多くの人々に受け入れられる「みる」スポーツ・プロダクト(以下「プロダクト」と略す、具体的にはホームゲームのこと)を開発できるのかという問いを明らかにすることであった。研究初年度には、複数ケース・スタディによりプロダクト生産活動の実態を明らかにするとともに、プロダクトの革新性概念を検討した。次年度には、プロダクトの開発活動を捉える分析枠組みを検討する中で、企業の製品開発研究が孕む理論的問題、すなわち決定論-主意主義および実証主義-解釈主義という方法論的対立ないしその融和が、プロスポーツ組織における開発活動の分析にとっても無視できない問題であることを見出し学会で報告した。 最終年度には、新たな価値次元(いわゆるニーズ)を自らの事業領域に創出したファジアーノ岡山FCの新事業「Fagiversity」の企画プロセスを事例として、技術の社会的形成アプローチに依拠する企業経営領野の知見を参考に立ち上げた概念枠組みの検討を行った。この研究の成果は日本体育・スポーツ経営学会で報告を行うとともに論文公表の準備中であるが、主に次の示唆が得られた。第一に、既存のプロダクトの価値次元とは相容れない既存事業や物的資源の存在がフロントスタッフに矛盾を認知させる。その矛盾を解消しようとするフロントスタッフの柔軟な解釈が開発活動の契機となり得る。第二に、ただしその柔軟な解釈は当人以外(例えば他スタッフやファン・サポーター)には受け入れ難いものである。そのためフロントスタッフは新事業の推進に際して現れる反対者に説得的な対話を繰り返しつつ、当初の解釈を特定の解釈へと収束させる。本研究では、理論的に対立していた方法論議をある種の記述理論と読み換え上記の示唆を提示し、本研究課題の目的達成を図った。
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