スポーツの審判員は高速度で移動する人や道具の動きを目視し、正確に判定する技能が要求される。しかし競技者に比べ、審判員の養成や技能向上のためのスポーツ科学的支援は希薄である。また近年、野球の審判員などは今後の人材不足が懸念されている。これまでに申請者は野球打者の投球視認能力について視線計測や投球位置計測の技法を用いて検証を進めてきた。これらの技法を応用して、本研究では野球の投球を判定する球審の養成と技能向上を目的としたトレーニング法の開発と効果検証に取り組む。まず、プロとアマチュアの球審の判定の正確さについて高速度カメラの画像より取得した投球の位置情報から検討し、優れた球審が行う投球の視認動作について視線計測装置を用いて検証する。そして、バーチャル・リアリティ野球環境での視認動作の習得や投球位置のフィードバックが得られるトレーニングの有効性について検証する。本研究の成果を通じて、効率よく球審の技能を高める方法を確立し、我が国のスポーツ発展の一助とする。2021年度は、前年度にコロナウイルス感染症の流行に伴い実施できなかった野球審判員を対象とした仮想空間上での投球判定トレーニングの介入実験を実施した。昨年度中に改善した仮想空間のCG映像やトレーニングプログラムにより、円滑に実験を実施できた。プロ野球の球審は、アマチュア野球の球審に比べ、ストライクとボールの正答率および到達位置把握の再現性が有意に高いことが確認された。今後は視認動作の解析作業と数量データの比較を行い、本研究についての論文を作成する計画である。
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