研究実績の概要 |
2021年度は前年度までに入水完了直後の水平速度との有意な相関がみられている入水開始時の角運動量が大きい泳者にはブロック期の力発揮にどのような特性があるかについて検討を行った.19名の男子競泳選手を対象にフォースプレート内蔵型スタート台を用いてブロック期における前脚,後脚および手の床反力を測定した.なお,ブロック期はフェーズ1(スタートシグナル-手離台),フェーズ2(手離台-後脚離台),フェーズ3(後脚離台-前脚離台)に分割した. その結果,角運動量(-22.4 ± 4.8 kgm2/s)と有意な相関が見られた変数として,手の最大鉛直力(r = 0.534, p < 0.05),後脚の最大力到達時間(r = 0.471, p < 0.05),50%ブロックタイムにおける獲得速度(r = -0.654, p < 0.01)が挙げられる.また各区間の終了時間はフェーズ1が0.50 ± 0.06 s,フェーズ2が0.60 ± 0.06 s,フェーズ3が0.73 ± 0.05 sであり,50%ブロックタイムは0.37 ± 0.06sであった.以上のことから入水開始時の重心回りの角運動量が大きい泳者には①フェーズ1において手でスタート台を強く引き上げつつ,短時間で後脚の最大筋力を発揮することができる,②50%ブロックタイムというブロック期の早い段階で高い速度を獲得できるという特徴があるといえる.前年度までの結果により,入水完了直後の水平速度には入水開始時の水平速度が最も影響することは分かっているため,角運動量の増加のみに着目することは有効とは言えない.しかしながら,一定以上の水平速度を獲得する能力を有する泳者の場合,ブロック期初期の力発揮を改善し,角運動量を増加することで入水時の減速を低減できる可能性がある.
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